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ミリアリアが連れて来られたのは、ブリーフィングルームだった。
停戦後、ほとんど使われなくなった作戦会議室は、入り口側だけ明かりがつけられ、その光の届かない暗がりに、人影が見える。

「……だれ?」

つぶやくと、人影が動いた。
彼女の方に。
シルエットが解け、姿が鮮明になるにつれ、ミリアリアの表情は、驚愕のものへと変わっていった。

「……ディアッ……カ?」
「よぉ」

この場に居るはずの無い人物は、ちょっとだけ気まずそうに、片手で応える。

ミリアリアの見間違いではない。
夢でも幻でもない現実のディアッカが、AAにいる。

「なんで……」
「あんな手紙よこされて、黙ってられるかよ」
「――――」

彼女は、自分の体温が上昇していくのを感じ取った。

手紙を書いた。
ディアッカに、自分が抱いている気持ちを知ってほしくて、ありったけの勇気を振り絞って、投函した。そりゃ、再び通じ合いたいと願いはしたが、実際……あれを読んだディアッカが、自分の元に来るなんて、欠片も思っていなくて。

びっくりするミリアリアを尻目に、彼はおもむろに宣言した。

「最初に言っとくけど、俺、今フリーだからな?」
「え?」

再会した二言目がこれでは、彼女も目を点にしてしまう。
突然やってきて、突然何を言い出すのかと思えば……でも、彼の表情は真剣そのもの。

……何も言えなくなる。

「お前と別れてからこっち、ずっと一人身なんだわ」
「……何で?」
「忘れられないから」
「……何を?」
「お前を」
「どうして?」
「……言わせんのかよ」

頭をわしわしとかき、一度目を伏せたディアッカは、顔を上げ様、はっきりと言った。


「お前が好きだから」


耳に届く声。
それはずっと、ミリアリアが求めていたキモチ。

「……じゃ……」

少しでも顔を動かせば、零れてしまうんじゃないかと思うほど、目尻に涙が溜まっている。それでもミリアリアには、訊かなければならない事があった。

「じゃ、どーして『別れよう』、なんて言ったのよ……」
「……どうして、だろうな……」

今となっては分からない。なぜ自分が、あんな結論を導き出せたのか。
あの頃を思い出し、あえて答えを探すとしたら……


「寂しかったのかな……」


寂しくて、一番大事な気持ちを見失ってしまった。

「そしてまた、くり返すの?」

紡がれる言葉に、ディアッカはハッとする。
哀しみに満ちた、ミリアリアの瞳――

「好きって言って、元に戻って……寂しくなったら、また別れるの?」

自分の気持ちとは180度違うことを、ミリアリアは言っていた。
こんな事、訊きたくないのに……黙って彼の胸に飛び込みたいのに、心に残る不安が、それを許してくれない。

不安。
また拒絶される不安。

しかしディアッカは、首を横に振る。

「もう、間違えない。……間違わねーよ。ちゃんと……分かったから」

どれだけ彼女への愛情が深いか。
手放そうとしても……手放せない想い。

「ごめんな、寂しい思いさせて」

ディアッカに頬を撫でられ、ミリアリアは、まるで緊張の糸が解けたように、涙を零し始める。

「……おそいよ……」

気付くと彼女は、身体をディアッカにあずけていた。

「ずっと、一緒に居たかったのに……」
「うん」
「……居させてよ、あんたの傍に……」
「それ、俺の台詞じゃん」

大きな手が、背中に回る。

包まれる身体。
暖かな体温。


……ディアッカだ……


「居させて、ミリアリアの傍に……」

その声に瞳を閉じ、無言のまま、ディアッカへと腕を回した。

もう二度と、離れたくない。


確かな思いを、伝えあう様に――




今度こそ本当にEND
結びに一言
好評だったのでスペシャルエピソード追加でハッピーエンドとなりました。
始める時、ディアさんがミリィさんを振るネタなので、反応怖くてビクビクしてたのも、今となっては良い思い出…(なのか?!)

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