君に雪を見せてあげたい。ナマエはいつもテッカニンにそんなことを言う。

「君は蝉だから、雪が見られないんだよね。私寂しいよ」

一カ月前のある日、ナマエは突然頭が痛いと言って倒れた。テッカニンはとってもびっくりした。ナマエはいつもとても元気で、彼女とはツチニンのころからの仲だったけれど、こんな彼女の姿は初めて見た。いつもは血色のいい顔を白く青ざめさせて痛い、痛いと唸る彼女を一生懸命背中に乗せて、テッカニンはポケモンセンターへと急いで飛んで行った。いつもテッカニンを治療してくれるピンク色の髪をした女の人はナマエの様子をみて、焦った顔をしていた。だからテッカニンももっと焦った。焦って、特性の御蔭でかそくした体でぶんぶんとセンター内を飛び回った。でもそれは怒られたからもうしないのだ。だってテッカニンはナマエに会いたい。

「・・・・・・雪が見たいな」

ナマエは変わってしまった。頭がいたい、と言って倒れた彼女が次に目を覚ました時、ナマエはテッカニンを見て大きな悲鳴を上げた。テッカニンはとてもショックだった。だから特性の御蔭でかそくした体で病室内をぶんぶんと飛び回った。ナマエはそれにも悲鳴をあげた。前なら早い早いと手を叩いて喜んでくれたのに。

「この世界で、雪はいつ降るんだろう」

ナマエはテッカニンの事を時々「せみ」と呼ぶ。テッカニンにはその意味はわからない。でもなんとなく、ちょっとだけ嫌な感じはする。だってテッカニンは「せみ」じゃない。テッカニンにはテッカニンと言う名前があるのだ。

「早く冬になってほしい」

そしたらこんな悪夢見なくて済むんだ。そう言ってナマエは布団をかぶって奥にもぐりこんでしまった。テッカニンはとてもさみしい。だってナマエはテッカニンを悪夢だと言うのだ。テッカニンは夢じゃない。

ナマエ、と彼女の名前を呼ぶ。ポケモンと人間、言葉は通じないけれど、彼らは鳴き声や行動でこちらの意をくんでくれる。だからテッカニンは以前ナマエがナマエだったときに、彼女の名前を呼んでいた音で彼女に呼びかけた。

「・・・・・・・・・・・」

でもナマエはそれに答えてくれなかった。うるさい、と呟いてますます布団の中にもぐりこんでしまった。テッカニンは途方にくれて、途方に暮れまくってぶんぶんと病室内を飛び回った後に窓際においてあったモンスターボールの中に飛び込んだ。ボールの中に入る前に、最後に耳に飛び込んできたナマエの声。彼女はまた「雪」のことについて呟いていた。君に雪を見せてあげたい。ナマエがそういうたびに、テッカニンはひどく悲しい気持ちになる。ナマエはきっと、テッカニンのことも、去年の冬に地面に積もって、一緒に遊んだ雪のことも忘れてしまったのだろう。




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