紺と白。二色に別れた不思議な装束を着た女は、おれの目の前にいきなりふわりと現れたかと思えば「あ、」と一言、小さな声で呟いた。

「………あんた、何?」

口を「あ」の形に開けたままの女の首にクナイを押し付ける。すると女はもう一度「あ、」と呟いて、そうしてごぽりと血をはいた。不思議な形をした白い装束が、あっという間に濁った赤で染まる。血をひっかぶるまえに飛び退いて、ぼたぼたと地面に落ちた血液を観察してはなをならす。なんだこいつ、細切れの肉片を吐いてやがる。

「あ、ぁあ、あ……………」
「…………なんなの?」

命はった盛大な嫌がらせなの?と血をはくだけはいて横倒しに倒れた女の腹を爪先でつつく。小刻みに震えているのは、自分の体から熱が出ていってさむいからだろうか。ひゅう、と大きく息を吸い込むおとがして、それから弛緩する体。

「ありゃ、死んだ」

わけわかんない。突然空中から現れたと思ったら突然血をはいて死んだ。人知の範囲をこえてるなと肩をすくめて死体を観察する。女の腹は自分が蹴ったそのままの形にべこりとへこんでいた。内臓がないのだろうか、いや、先ほど吐いたものがそれか。

「変なの」

濃い血の匂いに鼻を摘まんで、なんだか触るのがいやだったのでそこらへんの棒で女の体をひっくり返す。クナイで服を割くと、異質な腹の有り様が更に顕著になった。まるで彼女の臓腑だけを、誰かが粉々に打ち砕いたかのようだ。

「やだねぇ」

忍びの知識をもってしても、理解できぬその姿。下手をすれば人知を越えた出来事だ。少なくとも自分は、皮膚を、骨を傷つけずに内臓だけを破壊する方法を知らない。

顔をしかめながらも、女の皮膚を切り裂く。腹のなかにはへしおれた背骨以外、何もはいっていなかった。強いて言うならば、小さな小さな石の粒がほんのすこし残っていた肉にへばりついていた。いや、めりこんでいたと言うほうが正しいだろうか。

「…………だめだ、なんにも手がかりなし」

頭を、うでを、足を。女の体を全て切開してみたはいいものの、他の部分にはしっかりと肉が入っていた。何故、腹だけ?釈然としないままがりがりと首筋を掻き、懐から油のはいった小さな筒を取り出す。

「ほんとよくわかんないけど、まぁ、焼いてあげるよ。このままにしておいたら何があるかわかったもんじゃないからね」

中身を女の上にこぼし、火をつける。ぱちぱちと音をたてて女の体が燃え上がる。肉の焼ける嫌な臭いは、なんど嗅いでも慣れることがない。

煙のなかに毒が含まれていないことを確認しつつ、女が骨へとなっていくのを見送る。女は何時間もの間燃え続け、火葬が終わったときにはもう辺りは茜色にそまっていた。

「うん、これでよし」

残った骨を砕いて、土に埋める。彼女の痕跡はもうこの世のどこにも残っていない。女の血を、灰を、全てを飲み込んだ地面は何事もなかったように沈黙を保っていた。




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