私はあの時確かに死んだ。とても寒かったことを今でも覚えている。どこかに大きな何かがおちて、地面が揺れて、空が暗くなって、皆死んだ。私は水のなかにすんでいたけれど、それでも耐えられないぐらいとても寒くて、ご飯も皆無くなってしまって。とても辛かった。最後に見た水の底には沢山の生き物たちが沈んでいた。皆、死んでしまったのだ。

「アマルス」

私はあの時確かに死んだ。自分の心臓が鼓動を止めるその瞬間を確かに感じた。なのにどうして生きている?私は何故か目を覚ました。私は薄緑色の生暖かい液体の中でふわふわと浮かんでいた。驚きにぱち、と瞬きをした私に、辺りをぱたぱたと走り回っていた不思議な生物はそんな音を出して呼びかけて来た。私は何か返事をしようとして、ぽこりと泡を吐いた。

「キブンハドウダイ」

私は、その生き物が出している鳴き声の意味が分からなかった。私は口から小さな泡を出しながらこてりと首をかしげた。おかしいな、こんな鳴き声、聞いたことがない。意思がつうじなかった生き物なんて、いなかったはずなのにな。それに私は死んだはずだったが心臓はとくとくと元気に脈を打っていた。あれは夢だったのだろうか。いやそんなはずは。

「チョウシハイイミタイダネ」

ざぁ、と音がして徐々に私の周りを満たしていた水が抜けていく。私はぷは、と大きく息を吸い込んで吐いた。吸い込んだ空気は変な味がした。なんていうか、その。今まで感じた事のない味だ。不味い。

「ナマエサン、フクゲンニセイコウシマシタヨ」

私はやけにふわふわしているもので体についていた液体をぬぐわれ、その生き物に抱き抱えられてどこかへつれていかれた。その先には私を抱いている生き物と同じような姿をした生き物が何匹かいた。皆はどこにいってしまったのだろう、と私はあたりをきょろきょろ見回したが、知っている生き物は一匹として見かけなかった。

「アマルス」

生き物が私にそう呼び掛ける。私を抱いている生き物は他の生き物に私を渡した。おれてしまいそうなぐらい、細い足をしているなと思った。この二本足の生き物はとても弱そうだ。生きていけるのだろうか。外にはガチゴラスやプテラがいるのに。

「コンニチハ、アマルス」

コレカラヨロシクネと私を抱いた生き物はそう鳴いた。やはり私は彼らの鳴き声が理解できなかったが、こんにちはの意味を込めて一声鳴いた。生き物はにこにことなんだか幸せそうに笑った。守ってやらねば、と思って私はそのまろい頬をなめた。この生き物の柔らかい体は、卵から産まれたばかりの赤ん坊のことを思い出させたのだ。



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