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黄色い風呂敷に赤い液体がじんわりと染みている。それを徳川が持っている。ほら貝の音を聞きながらじっとそれを眺めた。友を打ち取った男の姿を眺めていた。結局、俺にはそういうことはできなかった。何故だろう、逆に初めてのことだったからかもしれない。今まで殺したくないとかどうにかしたくないとか、そういうことを思った生き物は一匹もいなかった。

徳川は殺したことがあるんだろうか。いや、あるに決まっているな。じゃなかったら友の首を切ることなんてできない。まともだったら出来ない。もし石田が勝ったとして、そうしたらあいつは徳川の首を切れるんだろうか。あのおっかない刀で切れるんだろうか。俺は無理だとおもう。遠目に何回か見ただけだけど、あいつはそういう男だと思う。多分、・・・・。

「・・・・小太郎、さん」

そっと誰かが腕に触れた。下を見ると泥まみれになった女の子がいた。頬に傷を負っているのを見て、そこが泥で汚れているのが気になって舐めた。血と土の味がした。

「う、うひゃっ!いきなり何をするんですか!破廉恥ですよ!」
「・・・・・、」
「あ、え、?あ、ああ・・・これは、いいんですよ。あなたが持っていてくだされば」

なまくらのクナイを差し出すと鶴姫は首を振った。なんだ、もらっていいなら貰おう。貰えるものは貰う、それが俺のポリシーなので。

クナイを懐にしまった俺を見て、鶴姫がふわりと微笑んだ。

「やっと御恩を返せました」
「・・・・?」
「覚えてらっしゃらないかもしれませんが、私は昔あなたに命を助けてもらったのですよ」
「・・・・・・・、」
「いえ、いいんです。私が覚えていればいいことなのです。気にせず、ちょっとした思い出なだけですから」

全く覚えてなかった。結構目立つ子だとは思うが。
首を傾げた俺に鶴姫が首を振った。お姉さまに教えてもらったことが当たったのです、とよくわからないことを言ってから、彼女は離れていった。さやかお姉さま、と少し遠くの方で聞こえた声に行き先を知りながら後姿を見送って、空を見上げた。微かにふいた風が何にも隠れていない髪を揺らす。兜越しに見ない太陽はとても眩しかった。

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