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トトロの上におっこちたメイちゃんみたいに、馬乗りになってぐすぐすぐすぐすずーっと子供みたいに泣き続けた俺に官兵衛さんは付き合ってくれた。元からこっちには俺一人で乗り込んできてたから、周りの足軽たちは皆官兵衛さんのところの人らだ。だからこっちに近寄ってこようとしなかった。空気が読める人達なんだろう。俺だったら突っ込んでったかもしれん。

「元から北条殿とは敵対したくなかった。どうにか抜け出そうとしてたんだが、ここまで来ちまった。小生の運はいつも悪いんだ」

あとからあとから溢れて止まらない涙をずっと拭い続けてくれながらそう官兵衛さんは言った。俺は泣いたらいいか笑ったらいいかわからなかった。まぁ泣いてたけど。ぐにぐに俺の顔を揉みながら官兵衛さんは笑った。ほっとする笑顔だ。

「顔が固まっとるぞ、風切り羽」
「・・・・・・」
「そうだなぁすまんことしたなぁ。小生が折れればよかったのさ。・・・・そうか動かなくなっちまったのか。そう思うとあのぞっとするような笑顔でもなんだか見たくなってきたな」

かぽ、と被っていた兜が外された。塩水が付いたのであとで脱がなきゃいけないとは思ってたんだ。あんな兜でも取られると眩しい。というか外で取ったことないからすごくまぶしかった。涙腺がぶっ壊れちまったみたいにずーっと涙がとまらないまま、瞼をぱしぱしやってると顔を覗き込まれた。長い前髪の中から優しい肉食動物みたいな目が緩く弧をかいてこっちを見てる。

「そうだ、ずっと暗いところでしか見たことなかったからわからなかったが、お前さん随分ときれいな目をしてるんだな」

こんなところで言う言葉じゃないだろうと思った。でもそれがこの人らしかった。またあふれてきた涙をぼたぼたこぼしながらぐすぐす鼻を鳴らすと宥めるように頭を撫でられた。手枷がついているから、なかなか手加減が出来ないのかぐらぐら頭を揺らされながら、すこしだけ笑った。獣のようでもなく、前の俺のようでもなく、普通に笑えていたと思う。官兵衛さんはそれをみて、おっ、なんてすごく普通なリアクションをしてた。血と泥に塗れるはずだった戦場で、そうやって二人でげらげらくすくす、ほら貝の音が鳴るまで笑ってた。

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