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でも所詮は俺と官兵衛さん。武士と忍びだもの。こうなることはわかってた。首にクナイを押し付けながら、そうだよなぁと思った。だって俺はさぁ、慣れてるんだよ。ずっとずっと殺してきた。命のやり取りし続けてきた。汚いところ、全部請け負ってた。家柄とかそういうの関係なくて、強い奴ともたくさん戦って、それで今の俺がある。風魔小太郎と呼ばれる俺がいる。

ギャリ、といやな音がする。俺のクナイと官兵衛さんの首につけられた鉄の首輪がぶつかっている音だ。いつの間にか風のばさらが解けてしまったクナイを握りしめて、懐に潜りこんだらおしまい。勝負は案外あっけなかった。戦いについてこれなかったそこらへんの足軽が、息をのんで俺たちを見つめているのがわかる。仰向けになって天を仰いだ官兵衛さんの荒い息だけが聞こえる。

「・・・・・・・」
「風切り羽」
「・・・・、・・・・」
「なんじゃ、笑わんのか。いつもはこういうとき、笑ってたろう。へたくそなおっかない笑顔で」

にや、と官兵衛さんが笑った。なんで笑えるんだこんな時に。笑えるわけがない。笑えるわけがなかった。いまだってクナイが震えている。つぶされたなまくらの、だれも殺せないような武器を握って震えている。カチ、カチ、と聞こえるのは俺の口から聞こえる音か、それとも鉄の輪とクナイがぶつかり合う音か、それすらわからない。

「小生はお前には勝てん。それはわかってたさ」
「・・・・・」
「しかしまだ死ねん。未練もあるし、この手枷のこともある。小生はあの刑部にぎゃふんと言わせなくちゃあならんからな」
「・・・・・、」
「・・・・なんだ、お前さん、風きり羽、おい」

泣くなよ、と大きな手でぐしゃぐしゃ頬をぬぐわれる。泣いてなんかいなかったはずだった。俺は泣いたことないんだ、昔から。よくわからなかったから。そうだ、一度目も二度目も、結局わからないことばっかりだ人生。

「そう静かに泣くんじゃない・・・ああ、そうだお前さんは声が出せないんだったなぁ」

いつの間にかクナイを取り落としていた。鶴姫から渡された刃を鋳潰したなまくら暗器は、官兵衛さんの皮膚を傷つけることなく地面へ落ちた。ぐすぐすとみっともなく鼻を鳴らしながらそれを見つめていた。血に濡れることがなかったクナイを見つめながら、何故彼女がそれを渡してくれたのかようやく理解出来た気がした。

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