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手にもったクナイを振る。ひゅうっと風の音がしてそこが淡い緑に包まれる。耳元に近づけるとしゅるしゅる音が聞こえる。風が渦巻いているのだ。攻撃がちゃんと当たらなくても、かすればかまいたちのようにそこが切り刻まれる。普段は使わない俺の得意技。手ごわい敵にはこれが一番だ。なんたって俺には、武士道なんてない。ただあるのは殺すだけ、ただそれだけ。

「、」

とん、とん、と地面の上で二度跳ねた。今日は気分も上場天気も良い。でも全く持って現状に似合わない空だ。でも晴れるのはいいな。雨の日に死ぬのは一度でいい。

官兵衛さんが首の前に手錠を持ってくる。首を狙うのが分かってるみたいだ。まぁ知ってるよね。俺ってば首をポンポンするの大好きだった。何故ってそこから噴水みたいに血がわーって出るからだ。血管をつぶさないできれいにきると血の雨みたくなる。俺はあったかくてちょっとしょっぱくて生臭いシャワーをにやにやしながら浴びて、じいちゃんに悲鳴あげられて、忍者だけど風呂に入らせてもらう。時折官兵衛さんと鉢合わせして、体洗ってあげたり洗い返されたりしてた。全部昔の話だ。

「・・・・・・風切り羽、」

もうなにも聞こえない。俺はクナイ、一個のクナイ。鶴姫にもらった、一つのクナイだ。
ごう、と体の周りで風が巻き起こるのがわかる。加速をつければもう誰にも止められない。狙うは一直線。俺は投げられた暗器。なんて忍びらしくない戦い方だ、と口の端でわらった。なんだか初めて人間みたいな笑い方が出来たなと思った。

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