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ま、なんやかんやで一週間なんかぼんやりしてたら過ぎた。ってなもんで俺の相手は官兵衛さんなわけだ。ああ殺したくねぇ・・・殺したくねぇ・・・なんで殺したくなかったんだっけ・・・鬨の声が空気を揺るがして聞こえる。それに飲み込まれてもう理由も忘れそうだ。

「小太郎さんっ・・・これを、これをお使いください」

鶴姫が必死な目をしながら駆け寄ってきてなんかを渡してくれた。あ、クナイだ。俺のじゃないけどもらったし使おうかな。もらえるものはなんでももらう。それが俺のポリシーなので・・・。

受け取ったクナイは腰にさした。一番使いやすい場所にいれた。それをなんで使おうと思ったのかはわからない。でもなんとなく本当は理由知ってた。殺したくなかったからだ。

「風切り羽」

突風が吹く。ひゅうひゅうとばさらの音が聞こえる。官兵衛さんもばさら持ってるの俺知ってた。俺とおんなじ、風のばさら。でも俺ってば体も武器も軽いけど、官兵衛さんは鉄球だ。当たったら骨くだけて内臓破裂して死ぬ。ああ・・・でもそれも面白いかもしれない。

「お前さんが相手なのか・・・・どうしても、戦わにゃならんのか」
鶴姫からもらったクナイは使いづらかった。でも特に支障はない。俺が刃物を使うのは、ただそれがばさらが乗りやすいからだ。なまくらだろうがなんだろうが、特に意味はない。俺が刃物であるとわかっていれば、それでいい。最悪手でも問題ないのだ。だから、つぶした刃も、意味がない。

「きひ、」

クナイを構える。目指すはあの丸太のように太い首だ。俺あそこに抱きつくのが一等好きだった。官兵衛さん髭をなかなか剃らないから、顔を摺り寄せるたびにじょりじょりした。それが大好きだった。

そう考えたら獣のような笑い声が漏れた。声は出せないのにどうしてだろう。歯をむき出しにする唸り方は犬だ。ジョンだ。俺が道連れにした理性のある畜生だ。もう見ないはずだった夢の、人工声帯を付けた俺が脳裏でげらげら下品な笑い声を上げた。

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