14


幸村さまはそれから幾日もたたないうちに顔を見せた。政務をどうにかしろとつかまっていたのだ、とへばる姿にそっと団子を差し入れる。すると一瞬で元気になるから面白い。たっぷりあんこを乗せたまっしろな団子を美味しそうにほおばる姿はある意味うちの名物になっているかもしれない。

「そういえば、つばめ殿」
「あい」
「佐助、という名前に聞き覚えは?」
「さすけ?」

おれは人の名前を覚えるのが苦手だ。なぜならみんな同じ顔に見えるから。幸村さまを覚えているのは単純に人が騒めくのと、あとはなんか怖いからだ。この人からは炎の匂いがする。焦げた匂い、燃える匂い、熱が伝わってくる。舌を出さなくてもわかる。

「聞いたことないですね」
「そうか・・・」

はてな、と首をかしげて幸村さまはだんごをほおばった、ような気がした。はてな、と俺も首を傾げた。不思議だ。幸村さまの手に握られた団子が串を残して消えたのだ。

二人して首を傾げ合ってると誰かがこちらにやってくるのが目の端っこで見えた。お客さんだろうか、と思ってそっちに顔を向ける。この前来たひとが立ってた。

「、佐助」

俺の後ろで幸村さまがはっとしたような声を上げた。お客さんは幸村さまに向かってにこやかに手を挙げた。知り合いなんだな、というかこの人がさすけか。

「つばめちゃん、だよね?」
「佐助、お前」
「旦那ちょっとまって、別に俺様危害を加えようとしてるわけじゃないんだから」
「・・・・・・しかし、」
「すこし話したいことあるんだけど、いい?」
「はぁ」

俺の知らんところで話が進んでる気がする。まぁいいけど、と両親に了解を取って俺は佐助と店を抜け出した。はいいろが店から飛び出して、上を飛び始めた。さんぽだとおもってるのかな、と思いながら好きにさせた。どこでも行ける鳥を縛るような気持は持ち合わせていなかったので。

prev next

[back]