13


昼過ぎ、ある程度人もさばけて一息つく。もうそろそろ幸村さまがくる頃だろうか。彼がくると女性客が一気に訪れるので気合を入れねばならない。彼女たちは上客であるが、酷い奴になると二三本の団子と一杯の茶で一刻ほど粘る。井戸端会議なら他の場所でしてほしいものだ。それからもっと金を落としていけ。

「いらっしゃいませ」
「こんにちはー、あんこ一つもらっていい?それからみたらしとよもぎを三つづつ包んで」
「はぁい」

だれかのお使いだろうか。初めてみるお客さんが妙に慣れた様子で団子の注文をしてきた。それと同時に店内の女性客がざわめいたのでもしかしたらこいつは顔がいい男なのかもしんないと思った。

とりあえず、と席に案内して急いであんこの串を一つとお茶を持っていく。お前がたいして買わなくても周りのやつらが金を落としていくからゆっくりしていって構わんよとの意味を込めてどうぞとそれらを差し出すと、何故か無言でほほえまれた。それを見たらしい店内の女性客が背後で一気にどやどやし始めた。怖い。

「ありがとう・・・ね、あの天井に止まってる鷹、いい鷹だね」
「あら、ありがとうございます。でもこの距離で見えますか?」
「俺、目はいいんだ」
ずず、とお茶を一口すすって、客がすこし目を細めて天井のはいいろのことを見た。自分でそういってるんだから見えるんだろうけど、なんだったら、と思って俺ははいいろを呼び寄せることにした。ちなみにちゃんと店内に鷹がいることを言ってあるので、ほかの客は何も言わない。菓子を作っているところにはいいろは絶対に入らないし、そこらへんは全然大丈夫なのだ。はいいろは店の中に糞を落としたことがないのも、お客がきてくれることに少し関係あるかもしれないな。

「おいで、はいいろ」

懐にしまっていた手ぬぐいを腕に巻いて補強してからはいいろを呼ぶ。と客のほうから小さく「あ」と聞こえたような気がした。翼を広げて俺の腕に降り立ったはいいろが一声鳴いて、首をかしげて客のほうを見る。めずらしいこともあるものだ。普段はいいろは人間なんかに興味をしめさないのに・・・。

「・・・・はいいろ、って名前なの?」
「ええ」
「不思議な名前だね。誰がつけたんだい?」
「私ですよ。今はきれいな鷹だけど、昔は灰の色をした羽毛の塊で」

親がいなくなってしまったのを育てたのだ、と昔の話をすると客はへんてこな顔をした。はいいろはそんな客の様子をじっと見つめていて、時々俺の腕で足踏みをした。はいいろが好きそうな人間ではないのにどうしてだろう。いい匂いでもするのかな。

「そう、なんだ・・・」
「こんにちはつばめちゃん。よもぎを6つ包んでくれないかい」
「はーい只今。それじゃあお客さん。ごゆっくり」
「・・・うん、ありがとうね」

客は団子の包みを受け取るとすぐに出て行ってしまった。その後姿を見送るようにきゅろろ、とはいいろが一声鳴いた。

prev next

[back]