世


どこともしれぬ百姓の子供だった。あるときひどい飢饉が村を襲って、水と変わらないような粥を食べることが何日か続いて、人売りに売られて、そこから忍びの里へとまた売られた。自分の最初の価値は二袋の米とそれから一握りの金で、忍びの里につくころには3袋の米と両手いっぱいの金まで増えていた。

「佐助か」
「よーっす、忍びの補充をしにきたんだけど」

靄のようなものに包まれた、からすらしきものを肩に乗せたあかがね色の髪の毛をした男が、時折里に現れた。どこか聞いたことがあるような声である気がしてちらちらと注意を払っていたら目をつけられて、微笑まれた。

「俺に何か?」
「え、ええと」

からすが、と言うと眉をあげられた。それで何かおかしなことを言ったかと肩をすくめたら、折檻のかわりに里から買い上げられた。

「見えるんだ」
「は、」
「こいつねぇ、ばさら持ちじゃないと見えないの」

ばさらとは何だろうか。首を傾げた自分に、あかがね色の男は動物のような笑みを浮かべた。

「今はわからなくても、素質があるんだろうな。青田買いってやつだ」
「はぁ」
「俺ぐらいになれば、こういうのも出せるよ」
「いえ・・・」

からすはなんか怖いんで、とつぶやいたら笑われた。だから俺様のこと怖いなーって見てたんだ、と何がそんなに面白いのか呼吸が乱れるぐらい笑っていて、ちょっと性格が悪いなと思った。

「なんで怖いの?」
「・・・・たべられそうで」
「ふーん、からすに抱く印象としちゃぁ、あながち間違いでもないか」

木から木に飛び移りながら、ぼそりとつぶやかれて耳を疑った。苦手な自分が言うのもなんだが、そんなに嫌なやつだっただろうか、あいつらは。

「死体とか、目とかを食う」
「目を」
「ああそうだ、なんでも食うよ」

魂も?というと変な顔をされた。顔を覚えて置け、といわれた真田の若様は、これまたどこかで聞いたことがあるような、そんな声をしていた。男の肩にとまった闇で出来たからすがヘンテコな声で鳴いた。


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