前前世


冷たい黒くて大きなものに救われて、それから灼熱の大地に落とされた。

「かえう」
「かえる、ですよ弁丸様」
「かえう?」
「る」
「う」
「まだ難しかったかなぁ」

慌てて跳ねた先は紺色の大地だった。上のほうで何かがきゃあ、と声を上げた。

「かえう!」
「そうだねー、はねるねー」
「さすけ!」
「はいはい」

次に掬われた先は冷たい水の中だった。すい、と泳ぐとまた声があがった。水の中に入ってきた妙な色をした五本の棒にとらわれないように逃げていたが、とうとう捕まってしまった。先ほどよりはいくらか冷たくなったそれが、自分の体をつかみあげる。

「もっと優しくつかんであげなさいな」
「んー?」
「死んじゃうでしょ」

ったく、力は親譲りかな。そんな声と共に拘束が緩くなる。慌ててまた水の中に飛び込んで、淵まで泳いだ。

「さすけ!」
「死んじゃうからやめましょうね。そんなにほしいの?」
「ん!」
「そっかぁ」

ごめんねーと言われていつもの大地の上に降り立った。体中のあちこちがあつくて痛くて、はいずりながら木陰へと急ぐ。少し休んで体力を回復させてから腹を満たそうと思い、木の葉の影に身を隠した。

その記憶は大きな黒い鳥に襲われて、そのあかい口内が見えたところで終わっている。

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