前前前世


踏みつぶした名も知らぬ虫の周りを蠅が飛び回って、糧になるかどうかを注意深く伺っていた。夏の暑さにやられて、少しめまいがした。足を縮めて濁った黄色い体液を垂れ流して、もう動かない虫の頭にとうとう蠅がとまって足踏みをした。爪の先ほどもないちいさなちいさな蟻が、縮こまった足を引っ張った。それを手に取ってつぶしてみると、地面に転がっている虫と同じような姿になった。その日の晩に隣家で赤ん坊が生まれた。大声で泣く赤ん坊の、縮こまった手足が、死んだ虫けらにそっくりだった。

「命は」

回っていくのだ。そう知ったのは親に連れられ、説法を聞いたときだった。輪廻転生という言葉と、その意味をしって、あの時の虫けらと赤ん坊はつながっていたのだと気づいた。

「幸村さま、知ってましたか?命は回っていくんだって」
「輪廻転生か?」
「そう、それです。あれをきいたときはおどろいたなぁ」

先ほど蟻だったものが腐肉に集る蛆になって生き帰る。蠅になり鳥に食われ雛として蘇る。巣から落ちた雛から抜け出したものが、別の器に入る。

「俺、またあんたのお傍につきたくて」
「そうか、励め」
「はい、頑張ります・・・」

いつも熱い掌だった。炎を操るからか、まるで焼けそうなぐらい。
もう休め、と上から言葉がおりてきて、ぼやけ始めた視界を暗くて熱いもので覆われた。氷水にでも浸かっているかのように寒気がするからだの中で、そこだけが熱かった。薄れていく意識の中でそれだけが現世への道しるべなのだと思った。

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