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………秘密結社ライブラの、事務所の更に奥の奥。何層もの防御壁、呪いの先にある、外がよく見えるように作られた大きな窓がある小さな部屋。その部屋に置かれたベッドの上で一人の青年が横たわっている。腕や首に幾つもの管や器具を繋がれ、半透明の膜を一枚被せたかのように濁った瞳でぼんやりと何かを見ている。開けっ放しの口から垂れ流された涎が規則的に下へと落ちて彼の服を濡らしていく。

時折、口元が動く。瞳が不規則な動きをする。手や足が痙攣する。

「あ、……ーーー、」

何かを言おうとしたのか、彼の舌が微かに動いた。それと同時に頭を動かしたせいで項垂れた反動で、ゆらゆらと頭が揺れる。自分を傷つけないためか、柔らかなミトンをはめられた両手がびくびくと跳ねる。

「ナマエ、」

カチャリと鍵を開ける音がして外へとつながるドアが開けられる。名前を呼ばれた青年がそれに反応したのか、足の指が二、三度痙攣した。

「気分はどうだね。今、窓を開けよう」
「…………ぅ、うう、…」
「明日、君の母親がこちらに来るそうだ。君への土産を持ってくると言っていた」

ご覧、今日のヘルサレムズ・ロットは快晴だ。その言葉と共に窓が開けられる。白い霧が混じった風が入り込んできて、青年が嗚咽にも似た意味のない音を出す。ベッドのそばに置かれた鉢植えに植わっている赤い花が、風に吹かれて微かに揺れた。


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