後日譚5
ぽちの頭はかなりよろしいほうらしかった。開きにして見せたところ自分にたりない箇所をすぐに理解したらしい。別に必要ないからと与えた手をかじっている音に混じってぽちの体内からぱきぱきと骨が折れるような音がするからわかった。
「ちょっとさわらせて」
その音が止んでから、着物の合わせに手を差し入れる。一瞬体を固まらせるもすぐに何事もなかったかのように手をかじりだした。触れたわき腹は常人のように固い骨で補強されていた。
ばき、と骨をくだく音。人の歯では出来ないだろうかじりとられた肉の断面図。犬歯を使わず前歯で肉を、骨を噛みちぎっている。犬にも出来ない芸当だ。骨を自ら生やすぐらいなのだから、歯を作りかえることなど造作もないのだろう。
「口開けて、いーってしてみな」
「い?」
「歯をね、見たいんだわ」
よくわからない、というような顔をしながら「い」と口を形作るのに頭を撫でてやる。血や肉片にまみれて少々判別しづらかったがぽちの歯は予想通り全て犬歯だった。噛み合わせはしっかりとしているようだ。大型の肉食獣のように太いそれ。この歯なら骨も食える。
「残さず食べるんだよ」
もういいよ、と言うとぽちはまたがりがりと手を食べ始めた。爪まで噛み砕いて物欲しそうに残りを見るのに許可を出す。地鳴りのような腹の音が聞こえて、彼女?がまだ満足していない事がわかったからだ。
「それでも足りなかった時の・・・・・おかわりは、」
「るっ」
「おかわりは、そうだな、また近いうちに」
一気にたくさん食べたかったのかぽちの口の端が割ける。割けるといっても血は出ていない。自分の体を自分の意思で作りかえられる、変な生き物だ。どうしてこんなものが旦那の寝床にあったんだろう。変なものと契約とかしたりしてないだろうな。
湿った咀嚼音を聞きながら、そろそろ戦があるかもしれないから、と呟くとまるでその言葉を理解しているかのようにぽちの耳がぴくぴくと動いた。大の人間一人はみるみるうちにぽちの腹に収まってしまって、残っているのは大量の血だまりだけだった。
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