後日譚6


今のところぽちに関してわかってることはさほど多くない。あり得ない質量が小さな体の中に収まること、やはり野菜はそんなに好きでないこと、それから頭の出来はまぁまぁだ。人間の言葉も片言ながら喋れるし、畜生の声も出せる。しかし意思疎通は行えない。ただそのような声を出しているだけらしい。ぽち自身も、意思を伝えようとは思っていないようだ。

「なんで人間の言葉は喋れるんだろうねぇ」
「うむ、そこが不可解だ」

肉の時に、人間はあげてないのにねぇ、と松の木の上に登って空を見上げているぽちを監視しながら佐助がぽつりとつぶやいた。届けられた書物に目を通しながら、そう返事を返す。ぽちに与えたのは畜生ばかり、なのに何故人間へと変化出来るのか。それも謎だ。

「・・・・・爆弾兵の滓」
「ん?」
「もとは人間だったのではないか?」

そういえば最初、肉塊を見て思ったことは爆弾を背負って特攻させられる哀れな兵士の残り滓だった。肉を切るとも、叩き潰すともちがう、強力な力で引きちぎられたような・・・・。

「あれが?」
「そうなければ、初めから人間の形など取れまい。そう思わないか?」
「・・・・・まぁ、ね。んでもって性別は女、と」
「年齢は?」
「さぁ、そこまでは分からない。ぱっと見ただけなら5,6歳ってところだけど」

でもその外見だって、もう混ざってしまって色々変わってしまっている。と佐助がうっすらと目を細めた。つまりあの外見はあまり意味が無いのだろう。先ほどだって、あの松の木に上るために手のひらと足を猫のようなものに変えていたようだ。前は人間ではなく毛玉のようになっていたのを見た。あの肉塊から最初に出てきた時のような姿だ。獣の体と人の眼球を持った、得体のしれない生き物の。

「今度、聞きだしてみろ」
「えっ俺が?」
「他に誰がいる。ぽちが一番懐いているのは佐助だろう」
「いやいや、旦那にも懐いてますって。あいつちゃんと主人様のことはわかってるよ」

従順だから、多分旦那の言うことなら聞くよ。そう言って、佐助はぽちの名前を呼んだ。

「おい、旦那が呼んでるよ。そっから降りてきな」
「・・・あい」

空を飛んでいく鳥を見上げながら、何やら鳴き声を出していたぽちは佐助の声を聞くとすぐに木の上から降りてきた。登ってきた時と同じように、足を獣のものに変化させて猫のように着地する。しなやかな体だ。

「な、ですか」

流暢、とは言えないがいつのまにかしっかりとしゃべれるようにもなっている。佐助は何も言わないが、昨日は確かに片言だったはずだ。この学習能力の高さが最後に行きつくのは道具か、処分か、どちらだろう。

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