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「おかあさん、おとうさん・・・」

フワンテが思うより、いちばは広いようだった。子供はずっと泣きっぱなしでフワンテはどうしたらいいかわからなかった。子供が泣いているのに鳴き声を聞いて駆けつけてこないとは親の風上にもおけないなと憤りもしたが、まぁ人間じゃ無理だなとフワンテは諦めることにした。人間はフワンテたちより弱いらしいから、なんかあれだ、きっとそういうのも出来ないんだと思う。

「ぷわわー」
「・・・・・・ふうせんさん・・・」

とはいえフワンテは未だ捕らわれの身であるし、小さな子供が泣くのをただ見ているだけなのは忍びなかった。今のところこの子供と一緒にいてフワンテが嬉しかったことなど殆どなかったのだが、子供が泣くというのはなんだかやるせない気持ちにさせるものだったからだ。

だからフワンテは憎きふうせんの真似をやめて、ぐすぐす泣いている子供にそっと体をすりよせた。すると子供はフワンテがポケモンだったってことに全然驚かずにフワンテを抱きしめてきたので、なのにふうせんなんて呼びやがってとフワンテは少し腹を立てたけど、体にぽつりとあたったちょっとだけ生温かい水滴にその気持ちはすぐに沈下してしまった。フワンテはなんだかんだ言ってきちょうめんだったから、子供を慰められなかったのも悪さにはいっちゃうのかなぁと思って、ちょっと頑張って頭についてるとてもふわふわしたフワンテも一体何なんだかよくわかってないふわふわで子供の頬を拭いたけど、でも子供は全然笑ってくれないのだった。

フワンテはある日突然ぱっと意識が覚醒した生き物だったから、親なんてものはいない。でも、そんなに親とはぐれるのは悲しい事なのかなと思った。さっきまでにこにこ笑顔だったのが見る影なくしょんぼりしてしまうぐらいには悲しい事なのかなと思った。きっと上空で上機嫌だったフワンテが突風であっという間に地面に下ろされてしまうことぐらいには悲しいのだろう。だからフワンテは、子供を元気づけさせようとがんばってみることにした。

「ぷわっ」
「・・・?なぁに・・・?」
「ぷわわー」

一旦離してくれと、くいくいと子供に掴まれている自分の腕を軽く動かすと、子供は目尻に涙をためたまま不思議そうに首をかしげた。だからフワンテはこの子供にはフワンテを離すという選択肢がないのかなと思ったが、希望をすてては行けないともう一度、今度はもう少し強めに腕を動かした。すると幸い子供はフワンテの意図をくんでくれたらしく、ほんの少しだけ力を緩めてくれた。

「・・・・ふうせんさん、にげちゃわない?」
「ぷわっ」

そうして最終的に子供が人差し指と親指だけでフワンテの腕を摘んでいるだけになったとき、子供はそうフワンテに訪ねてきた。フワンテはその考えもあったな、と思ったけれど、乗り掛かった船だとおもうことにして逃げないよと返事をした。フワンテは雨は好きだったけど、他人の涙はあんまり好きではなかったからだ。


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