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ひゅうひゅうとか細い呼吸音が聞こえる。小屋の中には濃い血臭が漂っている。手に持つ刀の切っ先からはぽたりぽたりと血が垂れて、床に新しい染みを作っている。

「お前が死ぬ前に、一つ言いたい事がある」

女は刀を持った自分を驚いた顔で見つめて、あ、と声を出して、そのまま抵抗せずに切られた。今は床に倒れ伏して、傷口を抑えながらどこか遠いところをぼんやりと見つめている。助からずに死ぬ生き物の顔だなと思った。

「お前が話していた言葉、今まで一度も耳にした覚えがないが・・・・何故か聞きおぼえがあるのだ。どうしてだろうな」

女が返事を返さずともよかった。元から答えなんて聞こうと思っていなかった。ただ、それだけは言っておかねばと思う。ひどく懐かしい言葉が、何故奇妙な女の口から語られるのだろうか。

女は勿論それに答えずに死んだ。女の死体を始末させながら、おさまり始めた頭痛にこれでよかったのだと思ったが不思議と心は晴れなかった。


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