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女を拾って話を聴き始めてから、やけに頭が痛む。寝ている時も起きている時もふいに脳裏によぎる知らない風景に、人間に、食べ物、強烈な既視感。しらないははおや、がっこう、でんき、ぱそこん、すとーぶ、けーたい。懐かしい。懐かしい。心が痛くなるぐらい懐かしいのはどうしてだろう。帰りたいと思ってしまうのはどうしてだろう。これ以上聞いてはならぬと思うのに女がいる小屋へ向かってしまうのはどうしてだろう。あいつの話を聞くと安心するのはどうしてだろう。何かと何かの間に板挟みになっているような気がしてガリガリと頭を掻き毟る。

「ころすか」

気がおかしくなりそうだ、それともじぶんがしぬか。
最近噂をされていることを知っている。馬番があの部屋を覗いていたのをしっている。女がそいつと仲良くなっていることをしっている。どうすればいいだろうか、初めて聞いた女の笑い声。朗らかな声。自分と接するときとは違う、楽しそうな。

「ころそう」

自分はこの記憶が異質だと分かっている、ころすしかないだろう。もう知られてしまった。いやまだ一人しか知らない。でも知られてしまった。自分の頭の中の記憶を最後に話したらこの痛みとかゆみを無くしてくれるだろうか。

刀をつかんで女がいる小屋へと向かう。人を切ったことは何度もあったが、これほど惜しい気持ちになるのは初めてだったかなと思った。


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