サヨナラ19


きらりと手のひらの中で鈍色のバッジが光る。ポケモン協会公認のものだからだろうか、岩を模したシンプルなデザインのバッジは大きさに反してやけに冷たく、ずしりと重たい。なんだかそこそこお金がかかってる、って感じがする。

「・・・・・・・・・・あーあ」

右手に乗せたそれを左手でつまみとり、太陽にかざす。太陽光を反射してちかちかと目を刺す輝きに目をつむってため息を吐く。ジムを攻略したのにこんな気持ちになっているのはなぜだろうか。まぁ何故もどうしてもなく、俺の采配ミスがすべての原因なんだけど。

「ごめんな、ヒトカゲ」

今ポケモンセンターに行くから、と腰についているモンスターボールを撫でる。中に入っているポケモンの様子が分かるように、透明になっている赤色の部分からはヒトカゲがぐたりとボールの中でへばっている様子が見える。隣のモンスターボールではポッポが心配そうな顔をしながらヒトカゲの様子を見ているのが見える。せっかく勝ったというのに、あまりの2匹への申し訳なさに気分が下がる。

「さすがはジムリーダー、だったな」

思わずため息が漏れる。あの時、ヒトカゲのメタルクローは確かに俺が指示した箇所を打ち抜いたし、イワークはその一撃で地面に倒れた。恐らくあの場所が急所だったのだろう、他の箇所に比べてひと際脆い部分。

『着眼点は良かった』

それを思い出すと共に、タケシの声が頭を過る。

『すなかけでの目潰し、更にイワークの急所を素早く見抜き、不利タイプにもかかわらず俺に勝った実力は素晴らしい。しかし、反撃の有無を考えることだったな』

メタルクローがイワークに当たった時、瀕死になる前にイワークは空に浮かせていたいくつもの岩をヒトカゲに向かって落とした。がんせきふうじ。それは恐らく、イワークが暴れまわっている間にタケシが支持していたもので、俺は砂煙でそれに気がつけなかった。道理ですなかけ如きであそこまで暴れるわけだ。野生のポケモンでもあるまいに。

『ポケモンの技は多種多様、ポケモンによって効果も様々だ。また、技を使わなくとも先ほどのように視覚を制限することも可能。トレーナーはそこを見抜かなくてはならない………しかし、君の手持ちは二匹ともよく鍛えられているな。君なら、ポケモンリーグに挑めるまで成長する。そんな気がするよ』

がんばれよ、と言われて差し出された右手はとても暖かかった。握手を求められたこと、戦い方を褒められたことは素直に嬉しかった。でも、タケシに言われたように俺自身がもっと周りの様子を見ていればーーーそう何度も考えてしまうぐらいには悔しかった。俺の予想通りならば、ヒトカゲはここでリザードに進化できるはずだったのになぁ。

prev next

[back]