おおさか


死が怖いと言えば、嘘になる。

死は救いである。少なくとも私には。佐助は昔、怖いと言っていたけれど、私はそうは思わない。死はチャンスだ。やり直すチャンス。希望はあるのだ。多すぎるほどに。

だが、今はそんなことよりも、大事なことがひとつある。

「徳川家康」

何としてもその本陣にたどり着き、この二槍で首級を取ってやりたい。あのいけ好かない男。この戦を知っていたから、私は九度山でも鍛錬を欠かさなかった。

手の中の槍をぐっと握り締める。その気持ちに呼応して、拳の中から僅かに漏れ出し始めた炎を抑えこんで、前を見据える。黒波のような人の群れ。そら見よ真田源次郎幸村。お前の目の前には有象無象、首級手柄が山のよう。

「いや、しかし、」

それは意味がないことかもしれない。ここは大阪、夏の陣。

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