おおさか
死が救いと言えば、嘘になる。
人は殺せる、でも死ぬのは怖い。それはこうして、死が終わりではないことをこの身を持って知ってしまったからだと思う。死んだ後には、また新しい生の始まりだ。それはきっとここではないまた別の場所で、そして自分が何もかも無くしてまっさらになっている保証はどこにもない。
「生きるか死ぬか、か」
だから自分にとってはどちらも地獄なのだ。嫌いな体、仕事、自分の生まれ。死の匂い、独特の寒気、何になるか分からないルーレット。莫大な数の生命。きっとこうして人の形をとれたのは、運が良かったのだろう。
それにしても暑い、と額に滲む汗を拭う。大阪は、紀伊国九度山にくらべると気温が少々高い。もちろんそれはこの季節も関係しているのだ。
なんせ今は夏だ。太陽がぎらぎらと輝き蝉がじぃじぃとやかましく鳴いている、夏。空にはでっかい入道雲がもくもく浮かんでいる。
「死にたくねぇなぁ……」
俺は今の自分が嫌いだ。事によっては消し去りたいと思っている。だが死は救いではない。死んであの人とバラバラになるくらいなら、死なないほうがましだった。
天守閣の上に登り、眼下の軍勢を見る。わらわらと動めく真っ黒い人の群れ。ここは大阪夏の陣。自分たちは戦国時代に生まれ落ちたイレギュラーであるけれど、歴史を曲げるようなことは一切して来なかった。だから自分はこの先を知っている。
「でも、そうだ……」
あの人と一緒に死ねるから、と目を瞑る。それなら死は、自分にとって救いに変わるのだ。
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