半分は優しさ


もう半分は性欲.

死にたかった。もうどうしようもなく死んでしまいたかった。いくら初めてじゃなくなったからって、訓練だからって、他の人とするぐらいなら舌を噛みちぎってしまってもいいと思うぐらいには嫌だった。体を這いずる固い手に、泣くものか、と歯をくいしばって涙をこらえても、それでもだんだん目がしらが熱くなってくるものだから自分は随分弱くなったのだと思う。意地でもって涙を流すことはしなかったが。さいきん、ほんとうに泣いてばかりいる。

体中を撫でまわしていた手が一旦はなれ、それからなにやらひんやりとした液体をまとって下腹のあの部分にふれる。そのぬめりをかりて、ぐ、と中に入ってきた指に悲鳴を上げそうになって、それを必死に耐えた。やだ、やっぱりあの人とがいい。全然ちがう。胃のあたりがきもちわるい。

「・・・・・ん?お前、もしかして手付きか」
「・・・・・・・ぇ、?」
「確かあちらに行く前に、ここを使ったことはなかったな」

その言葉とともにぐちゃぐちゃ中で指を回されてその音と動きに死にそうになる。腹の上側の所をぐいぐい押されて思わずひ、と漏れた声に、何かを納得したように頷いた男が俺の中から指を引きぬいた。途端に気持ち悪さが少しは治まって息をつく。それでも、触れられた部分を洗い流して綺麗にしたいとおもう気持ちは無くならない。早く水場に行きたい。

「未通女でそんな反応をするやつはいない。真田家の何方と関係を持った。昌幸様、信之様、弁丸様。もしくは他の家臣の方、下働き、真田家に仕える草、畜生。どれだ」
「・・・・・・弁丸、様です」
「そうか」

あの方は確かお前に懐いていたな、と問われて頷く。傍目に見れば、きっと俺達の関係はそう見えるのだろう。

「確か・・・齢は十かそこらだったか」
「・・・・・・はい」
「他の方にも抱かれたか?」
「・・・・・・・・いえ、弁丸様だけです」
「そうか。ならば、内容を少々切りかえる。俺との訓練を終えたら、あの方と同じ年ごろの忍びを選べ」

あの年頃は執着心が強い、変に癖を付ければどのような文句を言われるか分からんと言われて、なんだかあの人が侮辱されているような気がした。いや、これは明らかな侮辱なのだ。彼女はそんなんじゃない。
そのこころに呼応して体の奥からこいつを食い殺せとせり上がってきた闇が、再度中に入ってきた指で無理矢理引きずり出された快感に跳ねる体の影から僅かに滲みだす。それを形にして、自分に覆いかぶさる男に向けようとして、止めた。だってこういうことに全く意味がないんじゃなくて、少しでもあの人のためになるんなら、耐えなきゃいけないと思ったから。

あ、でも、汚いって思われたらどうしよう。他の奴に抱かれた俺を、あの人がきもちわるいって言って抱いてくれなかったら。
自らの弱点を把握しろと、無慈悲に攻め立てられてそれになすすべも無く喘ぐ。襲い来る絶頂に真っ白に霞む意識の横でふとそんな事を考えてしまってその恐ろしさがどうしようもなくて結局泣いた。


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