破廉恥でござる


破廉恥!とわざわざ春本をもってきやがった風来坊を追い払った主様は真っ赤だった顔を一瞬のうちに元の肌色に戻してばりばりと頭を掻いた。何度見ても忍びに匹敵する技だと思う。

「まったくあの男は……」
「破廉恥であるって?」
「佐助、見ていたなら助けてくれれば」
「でてったらそれはそれで厄介だし」

俺まで標的にされる、と肩をすくめると主はぐぬぬと唸って腕を組んだ。また前田に門の修理費を請求する文をださねばならんな、とため息をつくのにしっかり金は貰ってきてやるからと肩を叩けばさすけ……とやけに潤んだ瞳でこちらをみるのにびっくり。

「な、なにさ」
「今になって恥ずかしくなってきた……!」
「え?え?」
「だって、何が悲しゅうてこんな歳した男が春本ごときに顔を赤らめねばならぬのか」
「……そりゃあ、」

あんたのキャラ作りのやり方が悪い、といえばぐるると唸って頭を抱えるのにそっと解決策を耳打ちする。何、話は簡単だ。

「嫁を取ればいい」
「………無理。勃たない。相手に申し訳ない。お前俺がなんのために破廉恥破廉恥言い続けてるかわかってるだろ」
「それじゃもういっそ同性で」
「いくら同性愛が許されてもそれは無理だし、男に勃つわけなかろう!」
「注文が多いなぁ」

じゃあ無垢を装って破廉恥破廉恥言い続けるしかないでしょ。
そう言い切るとジト目で睨みつけられた。何よ、と返すと佐助が嫁になってくれればいいと来たもんだ。何を抜かす。

「お前さえ嫁に来てくれれば……!」
「俺があんたの嫁になってどうするの」
「俺が安泰だ」
「それね、俺が忍びのくせにって責められたり馬鹿にされますからね」
「あああああ」

もう戦国時代やだよう、と嘆く主にあんた長男でなくて良かったねと慰めてやるとその意味がわからなかったのか彼女は不思議そうな声を出した。

「それなりに力のある武家の長男はね、精通も迎えないうちから女の人と一緒にあそこを鍛えるらしいよ」
「は?あそこ?」
「魔羅」
「……それをなんで鍛えるわけ?」
「テクニックとかじゃないの」
「……はぁ」

もうだめだ。この時代は駄目だ、はれんちだ。と先ほどとは比べ物にならないぐらい真っ赤な顔でそう呟く表情を見てこりゃ風来坊やら独眼竜やらには見せられないなと思った。無駄に顔が整ってるだけあって、性少年にはたいそう目に悪そうだった。


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