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今の秀吉は、駄目だ。合わない。ワシは日の本に戦火を広げたくはない。それがたとえ、未来の民のためであろうとも。

「忠勝………ワシは決めたぞ」

何故自分が豊臣に下り、命令に従っていたか。それは勿論、戦で負けたと言う面もあった。だが自分は、あの時の秀吉の思想に少なからず共感したからこそ、下ったのだ。

しかし今の秀吉は違う。半兵衛を失ってからの彼は、半ば暴君へと化しているような。

「家康、戦に行くのか?」
「……ああ、そうだ」
「ふぅん……誰とするんだ?」
「豊臣秀吉とだ」

がつんと手甲同士を打ち合わせる。武器は当の昔に捨てた。人を屠る感触は未だに慣れず、馬鹿な戦い方をと笑われたこともあった。それでも、これを辞めようとは思わない。

「ん?ヒデヨシは、お前の上のやつだろう?」
「そうだ、だが、戦わなくてはならない」
「そっかぁ。そんなら、ナマエが良いことを予言してやろ」

くすくすくす。頭上から降り注ぐ艶めいた笑い声。そういえば、最近のナマエは何故かやけに上機嫌なのだった。

ふわりと頬が温かいもので包まれる。目の前にはナマエの顔がある。にやりと笑ったその半透明の顔面の中で、やはり口内だけがてらてらと赤く、生々しく滑りを帯びている。

「徳川は、豊臣に勝つよ」

そこから吐き出された言葉は、まるで呪詛のようだと思った。



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