拾


わたしわたしわたしわたしわたし。私。

「動かないな」
「そうだね」

わたしはぽちわたし。わたしはわたし。わたしのきおく。

「産まれるのはいつだろう」
「……産まれる?」
「そう思わぬか?恐らく、この肉塊は殻なのだ」

そらをはしるきおくじめんをかけるきおくくさをはむきおくみずのなか。くちのなかのたべものほねをかみくだいたきおく。死、死、死。あのつめたいおびえ、せすじをふるわせるさむけ。わたし。

「殻、ね」
「もし、俺達が餌を与えなかったらこいつはどうなっていたのだろうか」
「死んでたとか?」
「うーむ」

あたたかいうみのなか。ふってくることばはさみだれ。ならく。おもいだせないむかしのこと、いまのこと。でも、すこしは、そうね。すこしだけなら。わかるよ。

「………そういえば、佐助」
「ん?」
「お前、なぜ人間を与えるなと言ったんだ?」
「ああ、それは」

あたたかいうみのなか。もぞもぞとてをうごかす。ゆびをしゃぶる。なつかしいきおく。ぐるぐるとまわる、むじゅうりょくのうちゅう。ぷーる。

「だってこいつ、喋るから」
「は?」

私。私です。私は、ぽち………

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