漆


首級ほどの大きさだった肉塊は、徐々にではあるがゆっくりと育ち始めた。恐らく餌を変えたのが良かったのだろう。やはり小動物だけでは足りなかったのだ。

「ふーん、結構大きくなったね」
「ああ」
「ま、見た目は何も変わらないけど」

ぽちは一塊の岩ほどの大きさになった。しかし大きさは変わっても、姿形はそのまま。相変わらず表面はてらてら輝いているし、時折波打つ。だが、不思議なことにその体液が畳に染みこむことはなかった。これは素直にありがたかった。

「そう言えば今度、戦があるだろう」
「あんま大きなもんでもないけどね」
「そこでぽちの餌を」
「いや……それはちょっと無理かな」
「なぜだ?」
「妙な噂がたつに決まってんでしょ」

武田の虎若子、紅蓮の鬼が、人の手足を持って帰って食べる。そんな噂が立つのが目に見えるようだと佐助は肩を竦めた。それから、可哀想だとも。

「何が、かわいそう、なのだ」
「ぽちにくわれる御方が」
「畜生は良いのか?」
「言葉が通じないからね」

これにあまり知性を与えるべきじゃないと思うんだ、と佐助は鶏の頭を溶かすぽちを眺めながら言った。その理由はよくわからなかったが、口に出してそう言われるとなんだか不思議と腑に落ちたので俺は頷いておいた。このような勘というものは決して馬鹿にできない。少々残念ではあるが我慢するとしよう。

prev next

[back]