伍


佐助の協力により、肉塊に与える食いものが増えた。人間が食えぬ兎の頭、耳、尻尾、足、蛇の皮、小さな鳥、魚。ぽちはそれらを皆平等に溶かし、食す。好き嫌いというものはこれに存在せず、生き物ならばなんでも食うらしい。ただし、野菜はどうしたって食わない。ただ肉だけを、食らう。

処分の手間が減って楽だ、とぽちの上に今日捌かれた兎の頭と手足を落としていた佐助がこんなことを言った。

「こんな生き物がさぁ、居れば仕事の時楽なんだよなぁ。主の言うことちゃんと聞いて、もっと早く肉を消化してくれるような奴」
「人間を食わせるのか?」
「そだよ。なんでも食うんだから平気でしょ」
「そうだな」

そんな生き物にそだってくれねぇかな、と佐助がぽちをまじまじと眺める。ぽちは兎の頭蓋をゆっくりと溶かしながらも、その視線に答えるようにふるふるとその体の表面を波打たたせた。こいつは頭も手足もなにもないただのぼってりとした肉塊であるが、こうして時折こちらに答えるようなそぶりを見せるのだ。それなりの知性はあるらしい。

「旦那はさ、ぽちをこのままこうして育てて、使えると思うの?」
「ああ」
「そんならいいけど」

ただそこに鎮座し、肉を食らうだけの怠惰な塊をこうしてわざわざ生かしているのだ。勘ではあるが、こいつは必ず変化を遂げる。遂げなければ、殺すだけ。熱に弱いのはわかっている。弾力に富み、刃物をなかなか通らせぬこの肉塊は、己の力で燃やし、赤くなるまで熱した鉄を押し当てるとじゅうじゅうと音を立てて体を震わせ苦しんだ。肉を食って再生したらしく、今はその傷跡はどこにもないが。

「役立たぬならばそれまでだ、処分する」
「殺せる当てなんてあんの?」
「炎」
「もう試したんだ」
「脅威になっては叶わんからな」
「そうだねぇ、ま、弱点があるなら安心かな」

早く役立つもんに育つんだぞ、とぽちに声をかけている佐助をみて、俺はぽちが焼けると食欲を誘う良い匂いがするのは教えないでおこうと思った。この男、案外悪喰なのである。


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