でも幸佐も好き


二人が作った美味しい夕食を俺もご馳走になって、ふぅとくちくなった腹を抱えて与えられた部屋で一人忍びにあるまじき様で寝っ転がっていると、おや、主様がどすどすと音を立ててやってきたではないか。何やら不機嫌な様子、これはどうしたかな。

「なに、どうしたの」
「………さすけ」
「なんだい」
「片倉殿と結婚なぞさせないからな!」
「は?」
「絶対だめー!」

やだー!と子供のように叫んでどすんと俺の腹の上に乗っかってきたのにぐえっと声をあげる。筋肉の塊だからおもいし、固い。女の体になってからいつも思うことだけどこの男ってばほんとに男そのものの体をしている。弱いところがひとつもない。

「重い!なんなんだよいきなり」
「やだ!嫁にはあげない!」
「なんだよその嫁って!」
「だって料理作ってあげるんでしょ!」
「はぁ?!」
「毎日お味噌汁つくってあげるんでしょー!」

そんなのやだぁと胸のところにぐりぐり涙と鼻水を付けられて思わず遠い目をする。あ、お酒の匂い。この人かなり飲めるけど、酔うと嫌な酔い方するのに。独眼竜め。

「一応言っておくけど、俺、男ね」
「この時代はホモだって当たり前なんだァ」
「………あんたそういや迫られてたっけ」
「うううっ」

とうとう本格的に泣き始めた酔っぱらいの背中を叩いて慰める。一体どうやったら料理を作る→結婚するなんて思考回路になるかはわからないが、酔っぱらいの考えることだ。支離滅裂であっても何一つおかしくない。むしろまだ話が繋がっているほうだ。

「抱っこしてあげるからねんねしな」
「……私は子供じゃない」
「じゃあなーんだ」
「……………24歳のOL」
「そうだね、今日は色々疲れたろ」
「………うん」

今日も怖いことたくさんあった、つかれた、とふにゃふにゃ呂律の回らない声でぐずるのにそっと同意してやって完璧に落ちるまで付き合ってやる。これだからこの人に酒は駄目なんだ、中々目が離せない。唯一、本人が何も覚えてないのが幸いだろうか。

「あー……」

着物がぐしゃぐしゃだぁと思いながらまだ胸にひっついている一際体温が高い塊を抱き締めて俺も眠りにつく。お酒が入ってたって悪いのはあんただから、明日の朝まで俺は起きません。だから独眼竜かその右目にはっけんされたってしらない。


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