幸村サイド


自分が男に生まれたことを最初は理解したくなかった。それでも着替えるときや用を足すときにいやでもまたの間の存在を意識してしまうものだからどうしようもないな、と割りきる事にした。それに、自分の性別に構っている暇なんてなかったのだ。私は何故か戦国時代に生まれていた。何もせずとものうのうと生きていられた平成とは違い、努力をしなければ役立たずのレッテルを貼られて見捨てられることになる。

「さすけ…」

この間父親から忍びを頂いた。銅色の綺麗な髪の毛に、髪をそんないろに染めていた友人のことを思い出して嬉しくなったが、この世界ではこのような色は差別の対象なんだそうだ。だが腕は一流、とのことで父親が里から買ったらしい。死んだような瞳をしていたのでその心がどうなってしまっているのか、それが少し怖かったことをまだ覚えている。

「さすけ、」

ある日、ぽろっと私がこぼした前世の言葉のお陰で、私は彼女と親しくなることができた。いや、彼女ではなく彼かな。私達はその点では同じような境遇だった。生まれは全く違ったが。

「さすけ?」

がたがたと子供の体で苦労しながらも開けた押入れの奥に彼はひっそりとうずくまっていた。ぐす、と鼻をすする音が聞こえる。また泣いているのだろうか。彼は案外泣き虫だ。

「どうしたの?」
「…………」

そっと近付くとぎゅうと抱きしめられた。肩に顔を押しつけられて、そこを湿らす生ぬるい感触に前にもこんなことがあったな、なんてことを考えた。前は彼に初潮がきてしまった時だった。今回はどうしたのだろうか。

「佐助、」
「も、ういやだ……」

男に戻りたい。と涙まじりの声でそう呟く彼の背中を撫でる。血の匂いはしないな、とこっそり確認して自分よりいくらか大きな体を抱きしめ返す。

「なに?どうしたの?」
「里になんか、戻りたく、ない」
「………………」
「い、ろのくんれんなんて………」
「え、」

思わず絶句した私を批難するかのように、体に回っている腕の力が強まる。全身でここにとどまりたいと主張するその様になんと声をかけたらいいか、どうすればいいか私はよくわからなくなってしまった。だって、どう慰めればいいのだ。どうにもならないってのに。

「………あのね、佐助」
「なに」
「つらいなら死んだっていいんだよ」
「……なんでそんなこと言うの」
「だって」
「………なんで、だってまた、また生まれ変わったらどうするの」

もっと酷いところに産まれて、それであんたもいなくて、そしたらおれはどうすればいいの。と震える声でそう彼が言うのに私は目を伏せた。ごめんね、と謝っても返事は帰って来なかったが、苦しいぐらいに強められていた腕の力が緩んだのできっと彼は私を許してくれたのだ。


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