罪だよ〜


人を殺したことはあるか、と初陣を目前にした主にそう震える声で問われて思わず鼻で笑った。何を今更、俺がどんなことをしてこの世界で生きているか知ってるくせに。

「なに?そんなことを聞きやがってこの」
「うん、すまないとは思っている。だが、どうしてもそう聞かずにはおられなんだ」
「あ、そ」
「うん………」

うつむいてしまった、図体ばかりでかくなった女の子にがりがりと頭を掻いてどうしようかと宙をにらむ。人を殺したことは、にもちろんあるよと答えるのはどうも癪に障る。それは自分が人を人とみていないからであって、まぁ自己防衛反応の一つだろうとは思うけど。それをこの人に知られるのはなんだかちょっと嫌だったのだ。猿しか殺したことないなんて、言えるか。

「しかしあんた、随分ちゃんと喋れるようになったね」
「うむ、努力をした」
「駄目だよ、誰が聞いてるかわかんないのに」

佐助の前では少し素がでてしまうけれど、とはにかんだ主の鼻をつまんで叱るように言うとすこし瞳が揺らいだ。でもまた元に戻る。いいだろう、お前と私との仲だからと吹っ切れたように言う強さは嫌いではない。

「人を殺したことはね、あるよ」
「うむ、知っている」
「知ってるなら聞くなってんだよ。でもね、予想外になんてこたないんだ……」

それは前に生きていた自分という意識があるからかもしれない。この世界を本当の世界だと思えていないからか。それとも忍びとして訓練を受けた精神が、どこか壊れてしまっているのか。だが、初めて人を殺してしまった時、自分は何も思わなかった。

「あんたはどうかわからないけどね」
「そうか、それを聞いて安心した」
「………そう?」
「ああ」

初陣で、俺は自分自身がどうなるかわからない。だが、怖がってくれるなよ佐助、と随分凪いだ瞳でこちらを見てそういうもんだから、なんだかとっても悲しくなった。この人の勘はよく当たるのだ。



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