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服が、汗を吸って微妙に気持ち悪かった。いつの間に眠っていたのだろうか。薄く目を開けると私の視界は半分ほど白で埋もれていた。それに体中がぽかぽかと温かい。はて?と僅かに体を動かすと心なしかふかふかした感触が手にあたって、ああ布にくるまれているのだと勝手に納得した。多分間違ってないと思う。

「……………起きちゃった?」

布があたって塞がれていない方の目で、ぼんやりと外の景色を見る。車に乗ってる時みたいにどんどん木がうしろに流れていく。こんな光景をみたのは何年ぶりだろうかと思っていると、すぐ近くで誰かが喋った。知らない声だった。低い男の人の声。

「……………、」
「俺の声、ちゃんと聞こえてないだろうけど一応ね。あのね、熱がすごく高かったから、あそこじゃ満足な看病もできないし」

これは誰だろう。慶次じゃない。慶次のこえはもうちょっと高くて、それから喋り方ももっときゃらきゃら陽気な感じ。
熱のせいかがんがんと痛み、ずっしりと重いあたまを僅かに動かして前を見る。ふわふわと揺れるあかがね色がそこにあった。ん?あれだな。あかがねといえば奴だな。さる。

「………、……………」
「もう少し、寝てたほうがいい」

近くと言うよりすぐ前から響いてくる声に、どうやら背負われているようだとようやく理解する。だれに、誰に?視界に広がる色。慶次と一緒に松風の上で見た、あの燃えるような夕日色を持つ。

「………………ぁぁ、……」

そうだよなぁ、お前、人だものな。

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