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次の日になっても、具合の悪さは治ることがなかった。むしろますますひどくなっている。がんがんぐらぐらする頭を抱えながら、布団から抜け出す。額に手を当てるとなんだか熱いような気がした。もしかしたら熱が出ているのかもしれない。

「洒落にならん」

このまま一人で死ぬのかも、という考えが頭をよぎって私はぶんぶんと首を振った。いやそれはない。多分。多分大丈夫私は平気。

ぴぃぴぃと鳴くひよこを籠のなかから外に出して、私はほんのり冷たい木の床にごろりと横に寝そべった。頬や腕が気持ちよくて、目蓋を閉じる。やっぱり熱が出てるのかな。ああももかんが食べたいな、きんきんにひえた、冷たいやつ。バニラアイスクリームもかけるの。お母さんが前に、風邪を引いた私によくつくってくれた。それからすりおろしたりんご、あつあつの卵粥、温めの白湯。いまつかってるうすい布団じゃなくて、ふかふかであったかい羽毛布団。熱をもったおでこにひやりと触れる、少し冷たくて、でもほんのりと暖かい人の手。

「・・・・・・・・・お母さん」

その感触にぶわ、と懐かしい記憶が脳裏によみがえる。重力にしたがって、目からぽろぽろと涙がこぼれて床に落ちる。熱が高いと勝手に涙が出て来るのだ。昔からそうだった。別に悲しくないのにでてきた。でも今は悲しいからでてきたんだ、ひとりぼっちだから。

「お母さん、お父さん、」

会いたいよ、と溢れ出る感情のままうわ言のように呟きつづける。会いたい、会いたい。もう一度会いたい。元の場所に帰りたい。だれもそばにいないのをいいことに、思う存分これまで吐かないようにしていた弱音を吐いて、体を小さく縮めて私は泣き続ける。さっきおでこに当てられた優しい手みたいな、悲しい幻覚はきっと熱が高いせいなんだ。

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