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慶次は2、3日滞在してから山小屋を去って行った。その間に猿は一度も姿を見せなかった。まぁ、もとからそこまで頻繁に来ていたわけでもないのだ。まだあいつが小さかった時はそう日をあけずに来ていたが、大きくなってからはそうでもない。多分仕事があるんだろう。人間、だから。

「ほら、みみずだぞ」

ざくざくと畑を耕しながら、私の隣でつんつんとなにやら土をつついているひよこの方に出て来たみみずを投げてやる。ひよこはそれにてててと駆け寄ってしばらくつつき回し、それからつるりと上手に飲み込んだ。おお、と感嘆の声を上げながら着物の袖で汗を拭う。

「・・・・・・あついな」

はぁ、といきをついて体の熱を外に逃がす。女子高校生だったときよかは体力がついているが、それでもやっぱり私は現代人だ。もやしなのだ、もやし。鍬をふるい畑を耕すのは立派な重労働である。

「はぁー」

ついついでてくるためいきを、どうせだれにも聞かれていないのだしと遠慮なく外に吐き出す。ちらりと隣でぴよぴよ鳴いているひよこに目をやって、またふぅ。はぁ。はぁー。

「・・・・・・・んもう」

お前は人じゃないよな、だってお前は慶次と選んだんだもんな。
小さな体を手ですくい上げて、私はひよこにそう話しかけた。するとひよこはそれにぴぃぴぃと答え、次いで私の掌から飛び降り自殺を図った。うーむ小さいいきものは何をするかまったくわからん。

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