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それから猿・・・・・佐助さんがなにやら用事があるというわけで帰ってしまったあと、私はごろごろと床に転がって悶えた。慶次はマイペースに作った鍋の中を覗きこんでおいしそうだなぁと言っていた。

「もう死ぬしかない」
「ナマエさん、それはちょっと極論すぎるよ」
「だって、だって、………」

猿だと思っていたから、あれやこれやそれやが赤裸々だったんだ!と私は慶次に訴える。もうちょっと、ほんと、ほんと洒落になりませんってばよ。頭の中ではやっぱり猿は人間と結びつかないのだけど、他の人の口からそう聞いてしまうとなんだか今までの行動が恥ずかしくてしょうがない。

「うおおおおお」
「落ち着いて落ち着いて、そーらひっひっふーひっひっふー」
「無理!無理だ!」

あとそれは妊婦さんの出産時の呼吸法だ!ベタなこといいやがって!
私はしばらく頭のなかでガトリングのように慶次とさ、佐助、猿、佐助さんに対してのあれやこれやをぶちまけたが、不思議なことにひっひっふーと肩でで息をしているとなんだか落ち着いてきてしまった。くそ、私は妊婦じゃないのに。

「…………ご飯食べよう」
「落ち着いたかい?」
「うん、自分でもびっくりするぐらいに」

はーぁ、と溜め息をついて、もういいやと火を慶次の目の前で普通に起こして鍋をもう一度暖める。ぱちぱちと、何も糧にせずに燃える炎をぼんやりながめていると、慶次が何やら静かに話を始めた。

「まぁ、あの人が猿にみえてたってことにはちょっとびっくりしたけど、でも仲良くやってたみたいでよかった」
「………まぁ、ね。関係は悪くなかったと思う。話は通じてなかったけど」
「あの人はねぇ、ちょっと前にもいったけど、少し難しいやつなんだよ」
「難しい……」
「うん」

生まれと、育ちと仕事の方面で。と慶次はぽりぽり頬を掻いた。やっぱり詳しい説明は出来ないそうだが、だから私と手を繋いでいた彼を見て慶次は結構嬉しかったらしい。あまりにもぼかされすぎてよくわからなかったが、取り合えずそうかと頷いて私は鍋をお玉でかき回した。

「………ついでだから聞いちゃうけど、ナマエさんはさ、なんでここにすんでるの?」
「そこに小屋があったからだ」
「何かから逃げてるとか、そういうのじゃないのかい?」
「うん、ただ、ここに小屋が都合よくあったから住んでいる。幸い先住者は死んでいた」
「そ、そうかい」

鍋の中身がくつくつと音を立てて煮えている。私はそれをお玉で器にすくいとりながら、まだ小さかったあの猿と一緒に墓を掘ったことを思い出していた。猿はあの時確か、何やら喋っていた。彼はわたしになんと言ったのだろうか。

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