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手持ちが誰もいない状態で34番道路を通るのは久しぶりだった。危ないと思うことなかれ。もちろんときたま草むらからでてきてしまうポケモンもいるけど、基本的にコガネシティの周りに生息しているポケモンはそういったことはしない。きちんと住みわけがされている。だから大丈夫なのだ。あっても迷子か、まだ生まれたばかりの赤ちゃんぐらいだ。それにそういった事情がある子は、よほどのことがないかぎり襲ってきたりしないし。

「こんにちは、どうもお久しぶりです」
「ナマエさん!」

最近はヒンバスのほうにかまってたから、中々お手伝いにこれなかった。からんからんと音をたてる扉を開くと、おばあさんが満面の笑みで私のことを迎えてくれた。

「お久しぶりねぇ、ヒンバスは元気にしてる?」
「ええ、とても。でもやっぱり自分の外見にコンプレックスがあるみたいで」

ポケモンを育てている裏庭に足を向けながら、だから今、彼をエステに連れていってるのですと話をすると、おばあさんはうんうんと頷いてそれはとても良いことだと言ってくれた。

「磨けばコンプレックスだって、すこしはかわるでしょうしねぇ」
「だといいんですけどねぇ」

今はなんとも思ってないし、かわいいと思うけれど。でも最初みたときは私だってとてもびっくりしたのだから、とへラクロスにあまいみつをあげながら私はおばあさんにそう話した。ヒンバスは熟考の末にうつくしさのコースを選んだ。悩んでいる彼に私は本当はアドバイスをしてやりたかったのだが、あまりにもヒンバスとその。たくましさとかかわいさとか、そういう単語がにあわなすぎてその。確かに彼はぶさかわいいのだが、それとかわいさ、という単語がしっかりとイコールでつながることはない。

「ヒンバスは・・・・・進化できるのでしょうか」
「それは分からないわ」

ぱらぱらと池の中に住んでいるポケモンたちにご飯を投げてやりながら、おばあさんはふぅと息をはいた。私は、抱きついてこようとするコイキングの頭を片手で抑えつけながらご飯をねだるメノクラゲの触手にポケモンフーズを渡した。

「でも、進化できたらいいわね。それもとても美しい姿になって」
「・・・・・・・ですねぇ」

人間の顔はどうにも、整形以外ではどうにもならないがポケモンには進化という手がある。それが彼の救いになればいいのに、と思うが今の私が彼の進化への道を発見できるとはとてもじゃないが思わない。だって、私がしていることといったらポケモントレーナーとのバトル、それから鱗を出来る限り綺麗に磨いたりとか、それぐらいだ。現在彼はかなり懐いてくれていると思うから、イーブイのようになつき度で進化するというわけでもない。

「・・・・・ねぇ、ちょっと。こら、コイキング。服の裾を食べないでよ」
「ほんとにその子は貴方に懐いてるわねぇ」
「嬉しくないわけじゃないんですけど」

貴方にはほんとのパートナーがいるでしょ、と私の服の裾部分を唇で食んでもむもむと動かしているコイキングの頭を軽く叩く。コイキングはぱ、と服を離して、それからはねるでまた私に突撃をかましてきた。

「ちょっとまって、まって、服に水がはねまくってるからさ!」
「あのねナマエさん、ずっと言ってなかったけどそのこ野生なのよ」
「コイキング!こら!・・・・・・え?」
「そのこね、パートナーはいないわ。ただ育て屋の池で暮らしてるだけ」
「あ・・・・・・」

そうだったのか、と私の腰あたりでぱくぱくと口を開閉しているコイキングの事をみやる。悪いことをいってしまっただろうか、とわびも兼ねてコイキングのその口の中にポケモンフーズを多めに落とす。もちろん好きな味の奴をだ。

「ヒンバスみたいに、ゲットしてもいいのよ?」
「え、いいんですか?」
「勿論よ」

ちらりとポケモンフーズをほおばっているコイキングを見る。頬を膨らませながらもしゃもしゃと食べている姿はお間抜けであり、それでいてかわいい。といっても、ヒンバスと同じような意味のかわいい、だけど。この子があのギャラドスになるなんて、ポケモンやればできるという奴だろうか。彼もそうだったらいいのにな。

「私は全然、むしろ家族が増えるのはとてもうれしいのですけど。でも今はヒンバスのことで手いっぱいで、この子にかまってやれるとは思えないんですよね」
「ああ・・・・そうねぇ。なら、ヒンバスのことが一段落してからってのはどう?」
「それでいいなら、・・・・ねぇコイキング」

むぁ?と喉の奥の方で不思議な声を出したコイキングに、手持ちになってみる気はないかと私は尋ねてみた。それを聞いたコイキングは顔についているひげをみょんみょんと振って、それから特大威力のはねるで私に飛びかかってきた。生臭い水と水草まみれにされてしまったが、なんていうのでしょうか。チェリムにしろヒンバスにしろ、自分を好いてくれているポケモンがいるってのは嬉しいことだなぁと私はおもった。だからはねるに続きたいあたりをされて地味に痛めた腰の痛みは、まぁ、見逃すことにしよう。

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