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そうしてエステから電話がかかってきたのはきっかりニ時間後。育て屋の仕事が一区切りついて、家の中でお茶をいただいていた時だった。

「おじいさん、おばあさん。ヒンバスとチェリムを迎えに行ってきます」
「はい、いってらっしゃい」
「気をつけるんだよ」
「はい!それじゃ、すぐ戻ってきますね」

借りていたエプロンを外し、お金やらなんやらが入ったバックを肩にかけて私はコガネシティへと戻る。ヒンバスはどんな姿になっているだろうか。チェリムはますます可愛くなってるとして、問題は彼なのだ。

「すみません、遅くなりました」
「いえいえ」

からんからんと可愛らしいベルが鳴る扉を開けて、受付へと足を進める。二匹を預けに来た時に足元にひしめいていたポケモン達は随分数を減らしていて、今ではもう二、三匹があちらこちらをうろうろしているだけだ。

「こちらがお預かりしていたポケモンになります」
「はい」

二匹のモンスターボールを預かってお金を払う。最初はお試し、ということで少しだけ割引してくれたのはありがたかった。もし続けられるようでしたら、と渡されたパンフレットを片手に育て屋への道を戻る。腰でかたかたと揺れる二つのモンスターボールにもう少し待っててね、と声をかけて34番道路を歩いていると、途中で黒と黄色のキャップを反対に被った少年とすれ違った。一瞬目が合って、彼が腰のモンスターボールに手をやりそうになるのをあわてて止める。

「ごめん!今バトルは出来ないの!」

ポケモン達がエステ終わったばっかりだから!と言うと、少年はぱちぱちと目を瞬かせて、エステ、と不思議そうな声で呟いた。今にもモンスターボールに触れそうになっていた手がゆっくりとしたに降りて、どうやらバトルは回避できたようだと胸をなでおろす。

「うん、ポケモンのね、毛並みを綺麗にしてきたんだ」
「綺麗に・・・そっか、それじゃあバトルは止めた方がいいですね」
「うん、それもあるけど今から人に見せに行くところだったから・・・ごめんね」
「大丈夫ですよ」

僕も目が合っちゃった時にやばいと思ってたから。と言って少年は腰のモンスターボールから一匹のポケモンを出した。モンスターボールの中から出てきたそこそこ強そうなウパーはどうやら疲れているみたいで、今にも倒れそうとはいかないまでも少しふらふらしていた。

「ウメバの森で皆予想外にダメージくらっちゃって・・・それに森を抜けたらたくさんトレーナーがいたし、早くポケモンセンターにいかなきゃって思ってたんです」
「ああ……そうね、ウメバの森の近くにはいろんなタイプのポケモンがいるから、そこで訓練をしてる人が多いのよ」

災難だったねと言って、私は少年にポケモンセンターの場所を教えてあげることにした。少し入り組んでいるとこにあるけど、とポケナビのコガネシティ地図を見せると少年はふむふむと頷いて、ありがとうございますと私に頭を下げた。

「いえいえ、じゃあ、迷わないようにね。あと、この先にはトレーナーさんいなかったから安心して進んで大丈夫だと思う」
「ほんとですか!よかった……」

少年がはぁと安堵の溜息をつく。でも草むらはあるから気をつけてね、と最後にそう忠告をして、私はそこで少年と別れた。

「強そうな子だったなぁ」

ウメバの森は主にくさタイプのポケモンが住んでいる。だから状態異常の技を使うポケモンが多いし、そこそこ深い森だから抜けるのにはある程度の実力がなきゃいけない。あのウパーも、ふらふらはしていたけどそこまで大きなダメージを負っていたとは思えなかった。

「次あったら私からバトル、挑んでみよう」

もしかしたらもう二度と出会わないかもしれない。でも、あの特徴的なキャップは忘れることはないだろうなと思いながら、私は早くヒンバスとチェリムの様子が見たくて育て屋へと急いだ。

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