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ヒンバスが深夜にようやくコースを決め、その次の日向かったエステはそれなりに混んでいた。ヒンバスのボールを携えた私の周りには他のトレーナーたちが連れて来たのであろう沢山のポケモン達がうろちょろしている。プリン、モココ、ポニータ、ワンリキー、ピジョン・・・・。ヒンバスはそれを見た瞬間自分からボールに戻ってしまった。チェリムはそれを残念そうに見送って、それから周りのポケモン達とわいわいコミュニケーションを楽しんでいる。

「お次のナマエさま」
「あ、はぁい」

暫く椅子に座ってぼんやり待っていると奥の方から名前を呼ばれた。フシギダネの背中に乗っていたチェリムにいくよ、と促して病院の診察室のような場所に入る。私と、それからとてとてと後をついてくるチェリムにその中にいた女の人がにこりと微笑む。この人が、いわゆるエステシャンなんだろうか。

「どうぞお座り下さい・・・ええと、ナマエ様はかわいさコースとうつくしさコースをお選びになっていますね」
「はい」
「コースに入る前に、少々手持ちのポケモンを見せていただいてもいいですか?」
「あ、はい」

私の足元をうろちょろしていたチェリムをひょい、と机の上にあげ、私はヒンバスのモンスターボールを取り出した。みずタイプの子なので、というと彼女はすぐに大きさを聞いて、それからなみなみと水が張った盥を用意してくれた。

「おいで・・・ヒンバス」

ぱしゅ、と音がしてモンスタボールが開く。赤い光とともにヒンバスが盥の中に現れる。彼のその姿を見て、彼女はまぁと声を上げ、そしてすぐに自分の口を押さえた。

「失礼しました、懐かしいポケモンでしたので思わず……」
「懐かしい?……あの、もしかしてホウエン出身の方ですか?」
「あ、はい、そうですよ。このエステはホウエン地方独特のものでして・・・・なのでここのスタッフは殆どホウエン出身です」

ヒンバスは中々面白いポケモンで、どこでも釣れるわけではないのですよ。と彼女はチェリムの花びらとヒンバスの鱗の様子をチェックしながら話してくれた。なんでも、ある一定のポイントでないと釣れないらしい。昔はよく、だれが一番早くヒンバスが釣れるポイントを見つけるかきそったものです。と彼女は懐かしそうな顔をしてヒンバスのひれを撫でた。ヒンバスはすこしおどおどしながらも興味深そうに彼女の話を聞いている。彼はおそらく卵から生まれているから、仲間たちが住んでいる場所の事を知らないのだ。
「それでは、暫くポケモンたちを預かりますね」
「よろしくおねがいします」

二時間ほどかかるので、終了しましたらお電話おかけしますと言って、彼女はヒンバスとチェリムを腕に抱えて奥へと消えていった。その後ろを誰かのワニノコがちょこちょこついていって、こら、と叱られているのが聞こえた。あわあわと戻ってきたワニノコと一緒に私は診察室から外へ出る。

「二時間かぁ」

足元に群れるポケモン達をふんづけないようにしながら私は首をかしげた。二時間も時間があるなら、育て屋さんを手伝いに行っても平気だろうか。

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