11


なんとなく、お偉いさんはこういうのたべないんだろうな〜とは思っていた。肉を焼いたのも、はいいろのためのご褒美のようなものだった。はいいろは、いつも狩りのあとに焼いた肉を食べていたせいで今ではそれが好物になっている。ないと拗ねるぐらいには火を通した肉が好きなのだ。

「馳走になった」
「お粗末さまでした」

もう、二羽の兎は骨だけになってしまった。予想に反して幸村様はよく兎肉を食べた。もちろん俺もはいいろもしっかり食べた。食べ物に関しては、俺は身分を気にしたり遠慮したりしない。

油でべたべたになった口を拭うために、手拭いに水をかけて幸村様に渡す。彼はかたじけないと一礼してそれを受け取り、上品に口を拭いた。女の子らしさで言えば彼の方が上だろうとごしごし口の周りを拭きながら俺はそう思った。はいいろがきゅるると鳴く。

「しかしなんというか・・・・某、つばめ殿の印象が変わりました」
「あら、ほんとですか」
「ええ、ずっと物静かな方だと思っておりましたが、実に豪快でござった」

普通の女子は兎をさばけませんぞ、と幸村様は笑った。農村にいけば沢山そんな女はいる、と俺は言おうとしたが空気をよんでやめた。彼はお偉い人なのだ。農民の女なんて知らないような。

けふ、と沢山たべたせいで喉の奥からせり上がってきた空気を吐きだした俺を見て、また幸村様が笑う。何故かずいぶん嬉しそうに笑ったあと、彼は小さな声でここだけの話だが、と俺にあることを囁いてきた。

「某は、女子が苦手なのです」
「えっ」
「なんといいましょうか、あの、集団できゃあきゃあと騒いでいる雰囲気がどうにも近寄りがたいというか、破廉恥であると言うか・・・・」
「あぁ、なんとなくわかります」

女子は男と違って柔らかいですし、どうも触れただけで壊れてしまいそうなのです。と眉を下げて言う幸村様に俺は頷く。それはよくわかる。雌になって初めてしった事なのだが、雌は雄より全然力がない。柔らかいし、時々自分でもよくわからないぐらい気難しくなってしまうし、月に一度めんどくさい事がある。なので俺は雌になってしまったが、雌が苦手だ。

「しかしつばめ殿は違う」
「そうですか?」
「あ、いや。深い意味ではなく、むしろ失礼なことなのかもしれませぬが、どうも貴殿からは女子特有のそういった雰囲気がなくて、その、安心するのです」

自分で言うのはなんだが、俺の顔かたちは良い方です。と頬を少し染めながら幸村様は言った。俺にはよく判別できないのだが、そうですねと頷いておく。店での雌たちの反応でわかる。彼はとても女に人気があるのだ。

「なので、まぁ、こうして異性と二人きりになるということは身の危険を覚える事が多く、好んではおりませんでしたが」
「ほう」
「もしつばめ殿がよろしければ、またこうして鷹狩りに誘っていただけませぬか」
「はい、いいですよ」

即答してこくりと頷くと幸村様はとても喜んだ。二人で火の片づけをして、また近いうちに、と約束を交わし城下町の手前で別れる。遠くでぶんぶんと手を振る幸村様に同じように手を振り返して、俺は急いで帰路についた。今日は無理矢理休みをねじこんだので、明日からはまた忙しく働かねばならないのだ。

prev next

[back]