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俺が両手いっぱいに枯れ枝を集めて戻ってくると、幸村様は一匹の兎を片手にもって佇んでいた。兎はぐたりとしている。首のところがへんにぐにゃりとゆがんでいるので多分もう死んでいるのだろう。

「……つばめ殿?その枯れ枝は」
「はいいろが捕ってきた獲物は、焼いて食べるのが昔からの習慣なのです」
「ほ、ほう」

焼いて……、と呟いてぼんやりしている幸村様の手から兎を頂く。首をおとして血を抜き、まずは内蔵を抜く。開きにして、腸が破れないように上手くひっこぬいて、皮を剥ぐ。枯れ枝はできるだけ大きなものを選んだ。皮を剥ぐ時には吊るさないと上手く出来ないのだ。

「……随分慣れていらっしゃいますな」
「昔からやっていますから」
「ほう」

余分な肉や脂肪を落とさないように、刃物で皮を剥いでいく。その間に幸村様に、はいいろとの馴れ初めを話していると、きゅい、と上空で鳴き声が聞こえた。二人して上を見上げればはいいろはまた何やらつかまえたまま空を舞っていた。先ほどの鳴き声は、とまるところがないと抗議しているのだろう。幸村様があわてて腕を差し出すと、はいいろはきゅるきゅると何やら呟きながらそこへ大人しく舞い降りた。暴れる兎の首根っこを掴んで、幸村様ははいいろを褒めた。

「はいいろ殿は狩りが上手でいらっしゃるな」
「ええ、こうして狩りに出かけて、この子が獲物をとってこなかった日はありませんでした」
「なんと」
「甲斐の城下町で菓子屋を開くことが出来たのも、はいいろのおかげなのです」

かちかちと火打石で火を起こす。出来た火だねに風を送って、さらに大きく燃やす。兎をいくつかの固まりにわけて、刃物でけずった木の串に刺して焼く。もう一匹の兎はとりあえずしめて、血だけは抜いておく。持ってきた竹筒の水で手と刃物を洗って、俺ははいいろに小さく切った生肉をわけてやった。幸村様の腕にとまったまま、はいいろはぱくぱくと兎肉を飲み込む。人差し指ではいいろの頭を撫でてやって、俺は兎肉をひっくり返す。じゅうとあぶらが垂れて、肉の焼けるいい匂いがあたりに漂い始めた。


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