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ヒンバスは今日も変わらず自信がない。バトルの腕は上々、技の威力も抜群。私との息もあっている。だけどやっぱり可愛いかったりかっこよかったりするポケモンをみると、僅かに萎縮してしまう。幸いなことにバトルに影響はないのだけど、どうにかこの現状を打破できないかと私は思っていた。そしたら見つけてしまった。ある日の新聞に挟まっていた一枚のチラシ。これ、ヒンバスには最適なんじゃないだろうか。

「ねぇ、ヒンバス」

自由公園の噴水の中でたゆたうヒンバスに声をかける。すこしうつらうつらしていたらしい彼は、ぱちぱちと眠そうに瞬いたあと緩やかな動きでこちらをみた。バトルのあとの、昼下がり。水温は程よい温度で眠くなるのもよくわかる。

「ごめんね、おこしちゃって・・・・あのね、私最近思ってる事があるの」

聞いてくれるかな、と目を合わせるとヒンバスは一瞬目をそらした。自信がない生き物にありがちな動作だ。ここらへんは人間も、ポケモンも何も変わらない。

「あのね・・・・あなた、あまり自分の事が好きじゃないでしょう。私にはそう見えるのだけどね、ちがかったらごめんね」

ヒンバスは私のことを見つめながらぷくりと泡を吐いた。ふるふると横に振られるかとおもった頭が止まって、一度だけ縦に振られる。尋ねた事を認めたヒンバスの姿はまるで罪人が法廷で、自分の事を裁かれるのを待つような。うーんなんと言えば良いのだろう。とにかく彼はずいぶん縮こまって、ひれの力を落として、次に自分がなんと言われるのかを待っていた。

「うん、嫌な事を言ってると思う。でもね、私提案があるの」

ちょっとエステに行ってみない?
悪いことをいってしまったなと、その様子に心を痛めながらもズボンの後ろポケットから取り出した紙きれをヒンバスの目の前に出す。悲しそうに目を伏せていたヒンバスはそれを恐る恐る見上げて、それからぴんとひれを伸ばした。ん、興味があるようでなによりだ。

「貴方は自分の外見が好きじゃないみたいだけどね、私は好きよ。ヒンバス、それは覚えておいてね。私貴方が、その外見もひっくるめて丸ごと好きなんだから。だからこれを進めてるの。貴方が少しでも自信を持てるように」

たくましく?かわいく?それともかっこよく?ジョウト地方にコンテストはないけれど、貴方のポケモンをもっと魅力的にしてみませんか。

指でその文章をなぞりながら、私はヒンバスに問いかける。貴方はどうしたい?どうなりたい?そのままの君だってとても素敵だけど、こうして努力をして、ちょっと自分を変えてみるのもいいと思うよ。

「どうする?」

ヒンバスは悩んだ、悩んで悩んで悩みまくった。暖かい昼下がりから、ドンカラスがヤミカラスの群れを率いて空を飛ぶような時間帯になっても、まだ彼は悩んでいた。家ではチェリムが私達の事を待っているので、私は考え込んでいる彼を抱えて家まで帰った。

「ちぇりむ?」
「うん?ああ、ヒンバスはちょっと考え事をしてるのよ」
「りり・・・・」

水槽の中に入って、ご飯の時間になっても中々それに手をつけようとしないヒンバスを見てチェリムが不思議そうな声を上げる。その疑問に答えてやってチラシを見せると、チェリムはふんふんと頷いて、かわいさコースを指さした。

「・・・・チェリムも行くの?」
「りるっ!」

にこにこ、満面の笑みで頷いたチェリムの頭を撫でて、夕飯に向き直る。財布の中身とエステの代金を思い出して、うーん、もうちょっとバトルで稼がないと不味いかな。

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