佐助成り代わり10


師匠に命令されたのは、死んでも弁丸様を守れと言うこと。まぁ私としては死にたくないから嫌だし、逃げたいから聞きたくないものナンバーワンであったのだが。習性と言うか調教……いや暴力による支配?とにかくそんな感じでぼこすかやられた私の頭に染み付いていることが『師匠に逆らうな』である。つまり私は敵がきたら真っ先に、自分の命よりも弁丸様を優先するし、飯の毒味もする。先ほど弁丸様が言った女中の名前、よしは毒味で亡くなった者。みつとあやは忍びの名前で、弁丸様を庇って亡くなった者達だ。今のこのお屋敷の中では正室様が生きている限り、弁丸様の傍にいるものは実力がなければ直ぐに死ぬ。つまり私も例外じゃなくて。

だからその問いには返事ができない。私が黙ったままでいると弁丸様は顔をくしゃりと歪めて再度私の胸元に顔を埋めた。ああ、慰めなくては。とおもうけど体はぴくりともうごかなかった。

「答えてくれぬのか」
「…………」
「さすけも、そのうち、暇をだされてしまうのか。俺の知らぬ遠い所に帰ったと」
「…………」
「なぁ」
「……、…………」
「おれはわかっているぞ。わかっているのだ、皆がどこに行ったのか。俺は阿呆ではないからな」
「…………」
「どうなのださすけ。お前も死ぬのか」

強い目だ。この子は強い。揺らぎない強さを持っている。きっと私が嘘を言ってもすぐに見抜くだろう。「いいえ死にません」そう偽りを口にしたらこの子供はどう思うのか?失望するだろうか、それとも。

もたつく舌で、必死に言葉を口から吐きだす。

「………し、ぬかも、しれません。私にはわかりません、皆、いつか死ぬものです」
「そんなことはわかっている。生きているのだから死ぬのは当たり前だ。俺もお前もいつかは死ぬ、だが俺はそのようなことを言っているのではない。お前はこの城に、俺をねらうものがいるのを知っているな?お前は俺の忍びだな?その体で俺のたてに、ほこになるものだろう。それでも死なずに俺のそばで生きてくれるのか、そう言っているのだ」
「……………」
「もう人が死ぬのは嫌だ。俺のためになんにんも死んだ。俺を守らなくてもいい、俺はお前に生きてほしい」

本当にこの人は、たった五年しか生きていないのだろうか。先ほどの子供らしさは演技だったのではないのかと、そう疑ってしまうような口調だった。
でもそんなことは今はどうでもよかった。ただ私は、どうするべきかと考えていた。こうして願いを言われたなら、師匠の命令に逆らって少しは足掻いてみようかと思う。そもそも足掻かなければこの屋敷で、私は死ぬ。かすがにだって二度と会えなくなる。私の愛しい家族。そう、二度目の生に汚らしくしがみつくのが、私だった。もう死にたくないのが私だった。そのことを、今、ようやく思い出した。

「…………はい、弁丸様、約束しましょう」

私はあなたのおそばにおります、と目と目を合わせてそう口にすれば彼の表情はぱぁと花ひらくように明るくなった。約束だぞ!と手を取られ、小指と小指をからませられる。

「さすけの指はとてもつめたいな」

どこでおぼえてきたのだろうか。遊女の愛の真似ごとをする幼子は不思議そうな顔をして私の指を見、無邪気な顔で指を切った。

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