佐助成り代わり9


「ここがおれの部屋だ!」

そうして、満面の笑みを浮かべたままの弁丸様が私を案内してくれたのは、自分の部屋だった。手を引かれるままに中に入ってから直ぐに逃走経路を把握し、近くに怪しい気配はないかどうか探る。うん大丈夫、何もいない。

「さすけ、ここに座ってくれ」
「はい、弁丸様」

命令されるままに畳にしかれた座布団の上に座る。それをみて弁丸様は満足そうに笑った。

「さすけ!」
「はい、弁丸様」

呼びかけられたので返事をすれば、弁丸様はまた心底嬉しそうに笑って、それから私の胸元に飛び込んできた。昨日のかすがのように、小さくて細っこい腕が私の背中にまわって、きゅうと服が握りしめられる。

「さすけ!」
「はい、弁丸様」
「お前は、おれだけのものだからな!誰にもやらないからな!」
「……はい、弁丸様」

ぐりぐりと、野性動物のマーキングのように頭を私の服に押し付けながら弁丸様はそう叫んだ。一体どういう意味だ?と内心首を傾げながらもう一度返事を返す。それに反応して、弁丸様がぴたりと動きを止めた。かと思いきや勢いよくあげられた頭。きらきらとひかる眼球、水滴を含んで重たそうに瞬く睫毛、少し赤くなった目尻。泣いてたのか、なんで。

「母上も、よしも、みつも、あやも、みんないなくなった」
「…………」
「さすけ、お前はおれを一人にしないでくれ」

この時、私は何と答えればよかったのだろう。


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