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どうやら慶次はとても人気者らしい。あちらこちらから慶さん、慶次さん、慶次、と声がかかる。今は、慶次さん、ほらお連れさんもこれを味見してごらんよと団子をくれたお婆さんのお言葉に甘えて茶屋で一休みしているところだ。

「美味しい!」
「そりゃあよかった。お連れさん、こっちもたべてみるかね?」
「うん、食べます!」

餡団子、みたらし、三色、きなこ。器にでんと盛られたそれを、ぱくりと口のなかにふくむ。久しぶりの甘味に、口角がゆるりと上がった。

「もちもち………」
「ここの団子は絶品なんだよ」

殿様だって買いにくるんだぜ、と夢吉に小さくちぎった団子をあげていた慶次が笑う。私はそれに、殿様は舌がいいんだなと頷いた。買いに来ちゃうのも当たり前の味だ。

「ありがとう、ご馳走さまでした。とても美味しかったです」
「あらうれしいこと、またきんしゃいな」
「はい!」

随分うれしそうに食べてくれたから、と団子を何本かお土産にもらってしまった。その包みを胸に抱いて、ぺこりと頭を下げて慶次とその場を後にする。それから先は怒涛の買いものタイムだ。あれもこれもそれも、と念のためにともってきてあった小屋のなかのお金を使って買いあさる。

「ナマエさん、お味噌買う?」
「買う!」

「ナマエさん、お醤油買う?」
「買う!」

「ナマエさん、お砂糖買う?」
「買う!」

「ナマエさん、」
「買う!」
「まだ何もいってないよ」
「あっ」

まぁそんなうっかりした出来事もあったが、慶次と一緒の初お出かけは、何一つ滞りなく終わった。私が危惧していたような怖いことや怖い物は全然なかった。



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