13
松風に慶次と一緒に乗って、ぱかりぱかり、道ならぬ道を行く。馬の上はなんていうか、爽快だった。いつもと違う高さの視界。太ももの下で動く筋肉。感じる松風の呼吸。
「乗馬って、いいな」
「おっ、ナマエさんもそう思う?」
「うん」
走ったらもっといい感じ?と後ろの慶次に問いかける。慶次は勿論、と答えてくれたけど今は鞍がないから駄目だそうだ。尻がいたくなるって。
「また乗せて」
「下に降りてきて、俺と一緒に出かけるならいいさ」
「………がんばる、がんばってみせるとも」
「いいねぇその調子だよ」
「うん」
あいつにも見せたいな、と呟く。猿はきっと木の上から毎日高い景色を見てるんだろうけど、きっとこれはこれでまた違って楽しいと思う。あの猿は頭がいいから、怖がらないで乗ってくれるんじゃないだろうか。
「あいつって誰だい?」
「うちに偶にくる猿だ」
大人の、多分雄の猿。
あかがね色の綺麗な毛並みをしていると慶次に説明すると、慶次はあかがね色ねと呟いて少々沈黙した。夢吉がもぞもぞと私の肩から慶次の肩に乗り移っていく。あんなちっちゃな体の熱量でも、ないと少し寒いなと思った。
「どうした?」
「いや、ちょっと、知り合いの事を思い出しちゃって」
「猿で?」
「うん、猿で」
妙な知り合いだな、と素直な感想を述べた私に慶次は笑って、名前に猿がはいっているんだと教えてくれた。珍しい名前だなと思う。
「私達は猿に縁があるのかな」
「そうだねぇ、ちょっと面白いな」
二人して笑いあいながら先に進む。あれほど怖いと思っていた戦場跡は、特に何事もなく通り過ぎて終わりだった。
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