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「いやでもやまの下は怖い」
「だーいじょうぶだって!俺がついてるよ!怖い思いなんてさせやしないさ」
ええーほんとかなーと言う思いを込めて目の前の男をじとりとにらむ。小屋の近くで行き倒れていた男の、慶次とやらの肩にのったちっちゃな猿がきぃと鳴いた。かわいい。あの猿と初めて出会った時よりももっと幼い、子供の猿だ。
「でも、なぁ」
「そう言わずに、ね。夢吉も、ナマエさんと一緒に出歩きたいってよ」
なぁ夢吉!と慶次が肩の上の子猿、夢吉とやらに話しかける。すると夢吉はするすると彼の肩から降りて、私のほうに寄ってきたではないか。そっと膝にてをおき、きき?と鳴いて小さく首をかしげるのに私は悶絶した。
「卑怯だぞ……」
「まぁまぁ、選ぶのはナマエさんだから」
俺はあんたに山のしたっかわは楽しいとこだってしってほしいんだよ。と慶次は優しいかおで言った。たしかに戦はいやなものだけど、したにあるのはそればかりじゃないとも。
「それに、塩ばっかじゃあきるっしょ」
「………………」
私は陥落した。
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