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頬の傷に障らないように優しく顔を舐めてくれるちょこをみて、最近、彼女のまえで泣いてばかりなようなきがするなぁと泣きすぎて僅かに痛む頭でぼんやりそう思った。と同時にロット様をほったらかしにしてしまったことに気がついた。慌ててベッドから飛び起きようとして、体中を走った痛みに体を丸めて悶絶する僕の背中を暖かい手が柔らかくさする。

「こら、そう急いで動こうとするでない」
「あ、ありがとう、ございます」
「いや、なに………そうだ、確かそのレパルダスは、N様から頂いたポケモンであったな」
「はい」
「あの人間不信が、よくここまでなついたものだ」

N様が見なさったらさぞかし困惑するだろうなと言ってロット様は苦笑した。僕はなんとなくそうは思わなかったけど、頷いておいた。イッシュから消えてしまう前のN様は、ボールがポケモンを持ち主に縛りつけるものだと考えていたからだ。あの少年と出会ってなにか変られたかもしれないが、僕が最後にN様に会ったのは彼がポケモンリーグに挑む前だ。
でも、あの時のN様はちょこの入ったモンスターボールをみて嫌な顔もせず、なにか考えてらしたな、と思い起こしているとロット様がちょこの頭を撫でた。少し、話を聞いてくれないかと言われてそれに了承すると、ロット様はぽつりぽつりとあるポケモンと人間の事を話し始めた。それはおそらく昔の話。きっとプラズマ団にはいった理由。

「……私はやはり、ポケモンはボールから解放されるべきだと、今も尚考えておる。そのような考えを強くもってしまうほど、可哀想なポケモン達を数多く見てきた……」
「………はい」

だがなぁ、と呟いてロット様は大きくため息をつく。ちょこがぐるぐると喉を鳴らしながら僕のかおにすりよってくる。それに視界を半分ふさがれながらも、僕はロット様が一気に老けてしまったように感じた。七賢人の一人ではなくて、ただの疲れ果てた老人のように。

「君と、君のレパルダスを見ているとどうにも考えが揺らいでしまう。もし、お前たちを引き離せと命令されたとしても、今の私にはそれが出来そうにない」
「ロット様………」
「私たちは、少々やり方を間違えておったなぁ。そう思うよ」
「はい、僕も………」

僕たちには、もっといいやり方が会ったはずだ。ポケモンのことを考え、人から全てのポケモンを奪うのではなく、もっと平和的な道が。
これまでに頭をさげて謝ってきた人達の顔を思い返して、僕は少し目をふせた。みんな、とても怒っていた。でも、やっぱりポケモンが帰ってきてくれて嬉しそうな顔をしていた。僕が以前みたような無関心な瞳は、一つもなかったのだ。

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