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ブラックたちにやられた怪我は不思議とそこまでひどいものではなかった。勿論打撲や擦り傷、切り傷や内出血で僕の体はどこもかしこも傷だらけだったけど、骨が折れたり内臓が酷く傷付いたりはしていなかった。だからだろう、だいたい二週間もすると僕はベッドから立ち上がって部屋の中を、ちょこに時々助けてもらいながらも歩き回れるぐらいには回復していた。

「調子はどうだね」
「ロット様」
「その様子だと、粗方回復したようだな」
「はい、もうだいぶ良くなりました」

ロット様は、何故かあれからも時々様子を見に来てくれる。ロット様はプラズマ団の上に位置していたお方だ。当然、プラズマ団が敗れたあとに降りかかった責任も多い。下っ端のことを気にかける余裕なんてないはずだ、と思うが、僕にはそれにある程度の予想もついていた。一昨日見舞いに来てくれた友人からの情報だ。プラズマ団は結局、2つに分裂しようとしている。ロット様がどちらに所属しているかはわからないが、どっちにせよ使える手駒は一人でもほしいはず。

「今日はある知らせがある。見舞いには、もう少々華のある話題のほうがいいかもしれんがな」

ロット様がパイプ椅子に腰掛けるのに合わせて、僕もベッドの端に座る。僕のサポートをしてくれていたちょこがにゃお、と鳴いてロット様に挨拶をした。

「………さて、本題に入る前に少々聞きたいことがある。君は今のプラズマ団の現状を知っているか?」
「はい。一昨日訪ねてきてくれた友人が、ある程度話してくれました」
「ふむ、ならば話は早い。しかしどこまで把握しているかね」
「プラズマ団が2つに別れ……一つはプラズマ団を元に戻そうとする集団、もう一つは慈善活動や、もう一つの集団の静止を考えている集団に分離しようとしていることは……それから、前者の集団のトップはヴィオ様だと」
「……そうか」

下っ端たちにそこまで、と言ってロット様はため息をついた。ちょこがくるると喉を鳴らして、ロット様に擦り寄る。ありがとうと言われて頭を撫でた手にぐいぐいと顔を擦りつけて、ごろごろと喉を鳴らしたままちょこは僕が座るベッドの上に飛び乗った。ちょこ一匹分の体重がスプリングに負担をかけて、ぎしりとベッドが音をたてる。

「………私は、後者だ。君はどちらだね」
「僕も、そうです。教えてくれた友人も同様に」「そうか!」

よかった、と安堵したようにロット様は言って、少し組織の現状を話してくれた。2つの派閥は結構人数が均衡していて、僕が想像したとおり、今は一人でも人手が多いほうがいいらしい。でも、僕を引き込めてよかった、と言われたのには驚いた。

「君はプラズマ団の中でも実力者だからな」
「そうでしょうか……」
「……パートナーとの関係が良ければ、それが強さに繋がるものだ」
「そう、ですね」
「それに、私が言ったことは嘘ではないよ」

実によく鍛えられたレパルダスだ、と言ってロット様がちょこを撫でた。嬉しそうにその手を甘受している彼女はロット様にずいぶん懐いているようだった。

「ダークトリニティの手持ちに匹敵するだろう」
「……あのレパルダスにですか?」
「会ったことがあるのか?」
「ええ、ちょこが気にかけていましたから。でも、今にして思うと…あの子は捨てられたと言うよりは奪われた子でしたね」

人間を嫌っていたわけではなさそうだったが、彼らからは逃げ出そうとしていた。そのたびに痛めつけられていたようで、時折ちょこが見つけてくるのを手持ちのきずぐすりで手当てをしてやったっけ。最も最後に見かけたときはどうだったか。彼らに懐く、とは行かなくても従順になっていたと思う。ダークトリニティはゲーチス様と共に何処かへ消えたが、あのレパルダスは・・・・・。奪ったポケモンを返却するリストにそれらしきポケモンは載っていなかったと記憶しているけれど、それが答えなのか。

「あの子の本当の持ち主は誰だったのでしょう」
「うむ、ある程度の検討はついている。恐らくヒオウギシティから攫われてきたポケモンだ」

だが、彼らが素直に返すとは思えん。とロット様は渋い顔をした。実力行使も難しい、話を聞くとも思えない。以前は何を考えているかわからなくとも力強い味方だったが、今はただただ恐ろしい。神出鬼没のダークトリニティ。ゲーチス様の忠実な3つの駒。どれだけ探しても全く情報は入らない。彼らは今、一体どこにいるのだろう。

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