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味見がしたい、と言いだされるとは思わなかった。手遅れになりかけるまで待ってくれないのか、と思いつつ四肢の枷を外され、抱きかかえられて牢から出る。この子からはとてもいい香りがするわね、とはしゃぎつつ体を洗い、新しい着物を着せてくれた女たちは何も知らないと見た。されるがまま、移動して、どこかの部屋の中に入る。

「待っておったぞ」

回春の効果を持つ肉は、果たしてどのような味がするのか。
狸爺がにやにやと笑いながら自分の事を舐めるように見る。欲を孕んだその視線に鳥肌が立った。それが性欲ではないことが、無性に恐ろしい。

舌を噛み切らないようにか、それとも悲鳴が漏れぬようにするためか。口に布を噛ませられる。それから腕を後ろ手に縛られて、右足をまっすぐ伸ばされ、左足を抑えつけられた。よくなめされた細い皮をもった男が右足のふとももをぎゅうときつく縛る。畳がよごれてしまうなと、貧血のようにがんがん痛む頭を横に傾けながらどこか他人事のようにそう思った。

「ぁ・・・・・・・・・」

刀が鞘から抜かれる涼やかな音がする。しゃら、と氷が擦れるような音を立てて姿を現し、光を反射してぬらりと輝く鉄の塊。それがそっとふとももに当てられて、僅かに身をすくませる。冷たいだろうと思っていた刀身は、予想に反して何故かほんのりと熱を持っていた。

「ぁ、は、あはは、あは、はぁ、」

許せ、とどこからか小さな声が聞こえたような気がする。目の錯覚でなければ、足へと振りかざされた刀はごうごうと音を立てて燃えていた。その様子をみてひく、と痙攣し、次いで喉奥から湧きでてきた声はどこか虚ろで、乾いていた。希望なんてものはもう小指の爪先ほどもないのだと、改めて認識したからかもしれない。

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